お久しぶりです。なんとか就活も終わり、卒業が確定しました。
そんなわけで『怪奇事件縁側日記』の続きです。
怪奇事件縁側日記 夏・2
『地下牢の天使』
そんなわけで『怪奇事件縁側日記』の続きです。
怪奇事件縁側日記 夏・2
『地下牢の天使』
「好きだよ」
目の前の青年にそう言われたとき、彼女は彼が何を言っているのか分からなかった。
「君のことが、好きだ」
理解するのに数秒を有した。理解してから、心の中にじんわりと温かい感情が広がっていった。
「私のことが……好き?」
「好きだよ。やっと見つけた……僕の幼馴染。覚えてる?一緒に用水路に遊びに行って、ザリガニを釣ったよね。それから……君が引っ越すときに、これをくれた」
彼がそう言いながら取り出したのは、青と白のビーズで編まれた指輪だった。
「……!」
喉が引き攣るのを感じる。
それはもうとっくの昔にこの世を去った母が編んでくれたものだったから。引っ越すときに幼馴染に上げてしまったのだということは覚えていたけれど、それが目の前にいる青年だなんて知らなかった。
「入学した時から君に話しかけたかった。……ずっと、君を探してた」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。その眼はとても真剣だったから。
「君さえよければ……付き合ってほしい」
熱に浮かされた目が彼女を射る。温かい手が彼女の手を包む。そのまま顔が近づいて唇が重なろうとするのを寸でのところで彼女は躱した。
「……ごめん、ちょっと先走りすぎた」
「ううん……私こそ、ごめんなさい。初めてだから……まだ」
初めてだから覚悟が決まっていなかった。それは本当のこと。
けれど、彼女は嘘を吐いた。
それでも彼は気付かない。
「いや、大丈夫だよ。……待ってるから」
そう言って肩を抱く手はとても優しくて温かい。
(これが、恋……?)
あの人なら気づいてくれた、と彼女は咄嗟に思った。
あの人に隠し事はできない。どんなに隠しても、本心を見抜かれてしまう。
肩を抱かれるとどうしようもなく胸が高鳴って、顔が熱くなって、それを隠すのに必死になる。
彼にもそんな感情を抱くようになるのだろうか。
きっと恋の芽が出ている、と彼女はぼんやり考えた。
(きっとこれが、恋なのかしら?)
神様。
友人は言いました。ラウルではなく、ファントムになりたいと。
それは大それたことでしょうか。
少なくとも、私は大それたことだと思います。
けれど、きっとあの子はそんなはずがないというのでしょう。
でも、私はファントムではなく、ラウルでいたい。誰にも受け入れられない悲しい怪人ではなく、誰からも受け入れられ、想い人の愛さえ手に入れたあの貴公子になりたい。
こう言ったらあの人を悲しませてしまうかしら、そう思わないわけではないのです。でも、あの人は私を一人の女の子としては見てくれません。私がファントムでなければあの人と出会うことはなかったけれど、私はあの人と、こんな形でなく出会いたかった。
お目付け役ですからって、何回も言われたくなかった。
お願い。
もう、そんなこと言わないで。
どうしてどんなこと言うの?
私が頼りないから?
だったら頑張るから。ちゃんとしっかりするようにするから。
だから……ねえ、私を愛してよ。
あなたのことが好きなの。
世界で一番好きなの。
あなたが私を愛してくれるなら、私はファントムでも構わない。でも、あなたは私を愛してくれない。
ラウルになれば愛してくれる?
それとも別の人になればいい?
お願いよ。私を愛して。
これ以上お目付け役ですからなんて言わないで。
おもちゃにしていいなんて言わないで。
こんなに愛しているのに、あなたは私を愛してくれない。
それでもいいなんて、私は言えないよ。
だって、きっと他の人には受け入れてもらえない。
今だって、友達に私のことを話すのが怖い。
だから、私を受け入れて。
でないと私、もうどうしたらいいかわからないよ。
目の前の青年にそう言われたとき、彼女は彼が何を言っているのか分からなかった。
「君のことが、好きだ」
理解するのに数秒を有した。理解してから、心の中にじんわりと温かい感情が広がっていった。
「私のことが……好き?」
「好きだよ。やっと見つけた……僕の幼馴染。覚えてる?一緒に用水路に遊びに行って、ザリガニを釣ったよね。それから……君が引っ越すときに、これをくれた」
彼がそう言いながら取り出したのは、青と白のビーズで編まれた指輪だった。
「……!」
喉が引き攣るのを感じる。
それはもうとっくの昔にこの世を去った母が編んでくれたものだったから。引っ越すときに幼馴染に上げてしまったのだということは覚えていたけれど、それが目の前にいる青年だなんて知らなかった。
「入学した時から君に話しかけたかった。……ずっと、君を探してた」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。その眼はとても真剣だったから。
「君さえよければ……付き合ってほしい」
熱に浮かされた目が彼女を射る。温かい手が彼女の手を包む。そのまま顔が近づいて唇が重なろうとするのを寸でのところで彼女は躱した。
「……ごめん、ちょっと先走りすぎた」
「ううん……私こそ、ごめんなさい。初めてだから……まだ」
初めてだから覚悟が決まっていなかった。それは本当のこと。
けれど、彼女は嘘を吐いた。
それでも彼は気付かない。
「いや、大丈夫だよ。……待ってるから」
そう言って肩を抱く手はとても優しくて温かい。
(これが、恋……?)
あの人なら気づいてくれた、と彼女は咄嗟に思った。
あの人に隠し事はできない。どんなに隠しても、本心を見抜かれてしまう。
肩を抱かれるとどうしようもなく胸が高鳴って、顔が熱くなって、それを隠すのに必死になる。
彼にもそんな感情を抱くようになるのだろうか。
きっと恋の芽が出ている、と彼女はぼんやり考えた。
(きっとこれが、恋なのかしら?)
神様。
友人は言いました。ラウルではなく、ファントムになりたいと。
それは大それたことでしょうか。
少なくとも、私は大それたことだと思います。
けれど、きっとあの子はそんなはずがないというのでしょう。
でも、私はファントムではなく、ラウルでいたい。誰にも受け入れられない悲しい怪人ではなく、誰からも受け入れられ、想い人の愛さえ手に入れたあの貴公子になりたい。
こう言ったらあの人を悲しませてしまうかしら、そう思わないわけではないのです。でも、あの人は私を一人の女の子としては見てくれません。私がファントムでなければあの人と出会うことはなかったけれど、私はあの人と、こんな形でなく出会いたかった。
お目付け役ですからって、何回も言われたくなかった。
お願い。
もう、そんなこと言わないで。
どうしてどんなこと言うの?
私が頼りないから?
だったら頑張るから。ちゃんとしっかりするようにするから。
だから……ねえ、私を愛してよ。
あなたのことが好きなの。
世界で一番好きなの。
あなたが私を愛してくれるなら、私はファントムでも構わない。でも、あなたは私を愛してくれない。
ラウルになれば愛してくれる?
それとも別の人になればいい?
お願いよ。私を愛して。
これ以上お目付け役ですからなんて言わないで。
おもちゃにしていいなんて言わないで。
こんなに愛しているのに、あなたは私を愛してくれない。
それでもいいなんて、私は言えないよ。
だって、きっと他の人には受け入れてもらえない。
今だって、友達に私のことを話すのが怖い。
だから、私を受け入れて。
でないと私、もうどうしたらいいかわからないよ。
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