お久しぶりです。ずいぶん時間がたってしまった……。なんとか落ち着いたのでたくさん更新できたらいいなと思っています。
では、どうぞ。
怪奇事件縁側日記 夏・2
「地下牢の天使」
では、どうぞ。
怪奇事件縁側日記 夏・2
「地下牢の天使」
☆
『オペラ座の怪人』は一人の少女を愛した醜い男の話でした。容貌が醜いがゆえに誰にも愛されず、音楽の才能を持て余したままオペラ座に閉じ込められていた怪人……エリックはオペラ歌手を夢見るコーラスガールのクリスティーヌを見初め、彼女に歌を教えるのです。そしてオペラ座のプリマドンナ・カルロッタの不調を機に美しい歌声を持つクリスティーヌはオペラ歌手として頭角を現すのでした。
けれども大盛況もつかの間、再びプリマドンナの座はカルロッタに戻ってしまいます。それを見たエリックはカルロッタにシャンデリアを落とし、大道具係のブケーの首に縄をかけるのです。
その頃クリスティーヌは自分に歌を教えてくれた音楽の天使に感謝しながらもデビューの夜に出会った青年ラウルと愛を深めます。けれども彼女は音楽の天使にも愛されていたのです。仮面に隠されたエリックの醜い顔に彼女は怯えるのですが、彼はどこまでも信じたのです。
いつかクリスティーヌは自分を愛してくれると。
それは恋人としてだったのでしょうか。
それとも、誰からも与えられなかった慈愛なのでしょうか。
☆
クリスティーヌ・ダーエを朝倉舞子と来栖恵蓮のどちらが歌うかという決定は三日後のオーディションに持ち越された。クラスの一部からクリスティーヌは一人でいいと強い主張があったためである。
クラス全員が集う講堂に歌声が響く。
クラスにいる演劇部が操るスポットライトの中心で歌うのは朝倉舞子だった。
「やっぱり朝倉さんかね」
明日華がぽつりと呟く。
「カルロッタのほうが良いんじゃない?」
「そういうこと言っちゃダメよ。……でもまぁ、来栖さん次第よね」
「涼香ちゃんはどう思う?」
密やかに優に囁かれて、涼香はふと考えた。
「歌は……上手いのよね。来栖さん」
来栖恵蓮は歌は上手い。音楽の授業で聴いているから知っている。しかし女優として舞台に立てるほどかと言われればそうは思えず、独唱の経験も授業以外では皆無だと聞く。
「……それ以外言えることがないんだけど」
「勝ち目はあるのかしら……」
唯奈がため息をつく。
舞子が歌い終わる。優雅にお辞儀をしたその刹那、彼女の頭上に何かが落ちた。
「……なに、これ……」
壇上の舞子の顔が引きつる。
「なんなの、変な手紙が来たんだけど」
「変な手紙?」
オペラ歌手・ピアンジ役の剛野淳史が手紙を受け取り、開封する。中身は小さなメッセージカードだった。
「なんだこれ……!」
文言を読んだ淳史が固い声を出した。
「来栖」
「……え?」
「お前は知り合いに怪人がいるのか」
「……どういうこと……?」
恵蓮が訳が分からないといった顔をする。それを見た淳史が怒鳴り声を上げた。
「とぼけるなよ!いくら自分が主役をやりたいからって自作自演までするか!?」
怯えた恵蓮はそれでもまっすぐ淳史を見た。
「自作自演ってどういうこと?私は何もしてない、あなたが何を疑ってるのか分からないわ!」
「これを見てもそう言えるか?」
淳史がカードを突きつける。それをのぞき込んだ舞子が恵蓮をキッと睨んだ。
「来栖さんって、そういうことするんだ……どうせ自分の歌に自信がないんでしょ?だからこういうことするんでしょ?」
「私こんなの知らないわ!私じゃない!」
恵蓮が悲鳴を上げる。
「じゃあ来栖以外の誰がこんなの書くんだよ!『文化祭のクリスティーヌ・ダーエは来栖恵蓮に歌わせよ』なんて!」
「私そんなの書いた覚えない!」
舞子と淳史、恵蓮の言い合いを流し聴きしながら涼香は床に落とされた封筒に目を留めた。
「……ファントム?」
近寄って封筒をつまみ上げる。
「自称こいつの知り合いだよ。……室宮だって来栖の自作自演だと思うだろ?」
淳史が吐き捨てる。
「自作自演かはともかくとして、自信がなきゃそもそも立候補なんてしないでしょ……歌ってもらえばいいじゃない」
その言葉を受けて恵蓮が舞台の上に駆け上がる。その瞬間、スポットライトが消えた。
「カード、見せて」
淳史から受け取ったカードにはこう書いてあった。
『文化祭のクリスティーヌ・ダーエは来栖恵蓮に歌わせよ。さもなくばファントムの呪いが降り懸かるであろう ファントム』
『オペラ座の怪人』は一人の少女を愛した醜い男の話でした。容貌が醜いがゆえに誰にも愛されず、音楽の才能を持て余したままオペラ座に閉じ込められていた怪人……エリックはオペラ歌手を夢見るコーラスガールのクリスティーヌを見初め、彼女に歌を教えるのです。そしてオペラ座のプリマドンナ・カルロッタの不調を機に美しい歌声を持つクリスティーヌはオペラ歌手として頭角を現すのでした。
けれども大盛況もつかの間、再びプリマドンナの座はカルロッタに戻ってしまいます。それを見たエリックはカルロッタにシャンデリアを落とし、大道具係のブケーの首に縄をかけるのです。
その頃クリスティーヌは自分に歌を教えてくれた音楽の天使に感謝しながらもデビューの夜に出会った青年ラウルと愛を深めます。けれども彼女は音楽の天使にも愛されていたのです。仮面に隠されたエリックの醜い顔に彼女は怯えるのですが、彼はどこまでも信じたのです。
いつかクリスティーヌは自分を愛してくれると。
それは恋人としてだったのでしょうか。
それとも、誰からも与えられなかった慈愛なのでしょうか。
☆
クリスティーヌ・ダーエを朝倉舞子と来栖恵蓮のどちらが歌うかという決定は三日後のオーディションに持ち越された。クラスの一部からクリスティーヌは一人でいいと強い主張があったためである。
クラス全員が集う講堂に歌声が響く。
クラスにいる演劇部が操るスポットライトの中心で歌うのは朝倉舞子だった。
「やっぱり朝倉さんかね」
明日華がぽつりと呟く。
「カルロッタのほうが良いんじゃない?」
「そういうこと言っちゃダメよ。……でもまぁ、来栖さん次第よね」
「涼香ちゃんはどう思う?」
密やかに優に囁かれて、涼香はふと考えた。
「歌は……上手いのよね。来栖さん」
来栖恵蓮は歌は上手い。音楽の授業で聴いているから知っている。しかし女優として舞台に立てるほどかと言われればそうは思えず、独唱の経験も授業以外では皆無だと聞く。
「……それ以外言えることがないんだけど」
「勝ち目はあるのかしら……」
唯奈がため息をつく。
舞子が歌い終わる。優雅にお辞儀をしたその刹那、彼女の頭上に何かが落ちた。
「……なに、これ……」
壇上の舞子の顔が引きつる。
「なんなの、変な手紙が来たんだけど」
「変な手紙?」
オペラ歌手・ピアンジ役の剛野淳史が手紙を受け取り、開封する。中身は小さなメッセージカードだった。
「なんだこれ……!」
文言を読んだ淳史が固い声を出した。
「来栖」
「……え?」
「お前は知り合いに怪人がいるのか」
「……どういうこと……?」
恵蓮が訳が分からないといった顔をする。それを見た淳史が怒鳴り声を上げた。
「とぼけるなよ!いくら自分が主役をやりたいからって自作自演までするか!?」
怯えた恵蓮はそれでもまっすぐ淳史を見た。
「自作自演ってどういうこと?私は何もしてない、あなたが何を疑ってるのか分からないわ!」
「これを見てもそう言えるか?」
淳史がカードを突きつける。それをのぞき込んだ舞子が恵蓮をキッと睨んだ。
「来栖さんって、そういうことするんだ……どうせ自分の歌に自信がないんでしょ?だからこういうことするんでしょ?」
「私こんなの知らないわ!私じゃない!」
恵蓮が悲鳴を上げる。
「じゃあ来栖以外の誰がこんなの書くんだよ!『文化祭のクリスティーヌ・ダーエは来栖恵蓮に歌わせよ』なんて!」
「私そんなの書いた覚えない!」
舞子と淳史、恵蓮の言い合いを流し聴きしながら涼香は床に落とされた封筒に目を留めた。
「……ファントム?」
近寄って封筒をつまみ上げる。
「自称こいつの知り合いだよ。……室宮だって来栖の自作自演だと思うだろ?」
淳史が吐き捨てる。
「自作自演かはともかくとして、自信がなきゃそもそも立候補なんてしないでしょ……歌ってもらえばいいじゃない」
その言葉を受けて恵蓮が舞台の上に駆け上がる。その瞬間、スポットライトが消えた。
「カード、見せて」
淳史から受け取ったカードにはこう書いてあった。
『文化祭のクリスティーヌ・ダーエは来栖恵蓮に歌わせよ。さもなくばファントムの呪いが降り懸かるであろう ファントム』
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