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水の精

お久しぶりです。長らく更新していませんでした……。
そんなわけでサークルに出した原稿からのサルベージです。
では、どうぞ。

水の妖精

彼女は水底から空を見上げるのが好きだった。ゆらゆらとゆれる水の膜の向こうに見える、ゆがんだ太陽が好きだった。
「また、太陽を見ているの?」
そう聞いた仲間に肯定の返事をする。
「飽きないの?」
「飽きないわ」
仲間はそう、と言って尾鰭を揺らしてそのまま泳いでいってしまった。

ある河の水底には水の妖精が暮らしている。メロウと呼ばれている彼女もその水の妖精の一人だった。水の妖精たちは気の向くままに魚と戯れたり水に漂う草で遊んだりして、たまに人間が来るとみんなで歌を歌ってからかって遊んでいた。メロウも魚と遊んだり歌を歌ったりするのは好きだったけれど、何よりも太陽を見つめているのが好きだった。
「ほらメロウ、人間の男が通るわよ……メロウ?……本当にあんたって太陽が好きなのね」
「……え?ごめんなさい、聞いてなくて」
そばで何かを言っていた仲間は呆れたように笑ってため息をついた。
「太陽が好きなの?」
「好きよ。だってほら、水にあんなにゆらゆらして綺麗。アトリにだって見えるでしょ?」
仲間……アトリはふと空を見上げ、すぐに理解しかねるといった風に首をかしげた。
「あたしには人間の男のほうが綺麗に見えるんだけどね……あんた、もしかして太陽の精に魅入られでもしてるんじゃないか?」
「どういうこと?」
「なんだか、恋をしてるみたいよ?」
「そんな、恋って……」
メロウは太陽に対して別段甘酸っぱい気持ちなど持ったことはない。だから否定をしようとしたのだが、アトリはちっちっ、と指を振った。胸元で彼女が大切な人から貰った、命の次に大事だという綺麗なペンダントが揺れる。
「わからないから恋をしている『みたい』、って言ったのよ。一度キンギョソウの大ばばさまに見てもらったらどう?」
キンギョソウの大ばばさまとはこの河にすむ水の妖精の巫女で、河の秩序を一心に守り、迷える妖精たちを正しい道に誘う老婆だ。その厳しい教えのおかげで、メロウはこの老婆と関わるのが苦手だった。
「もう、他人事だと思って、アトリは!」
アトリの顔があまりに悪戯っぽかったのでそう返したが、メロウの心の片隅には彼女の言葉がいつまでも引っかかっていた。

アトリの言葉はメロウの中で日に日に大きく膨らんでゆき、たまらなくなったメロウは数日後にキンギョソウの大ばばさまのもとを訪れていた。
「お前さんはそのアトリの言うことが本当かどうか知りたいということかい?」
生い茂ったキンギョソウに囲まれながら大ばばさまがたずねた。
「はい。……私は、太陽に恋をしているのか……」
もじもじと長く豊かな金色の髪をいじりながらメロウが肯くと、大ばばさまはそうかい、と言って彼女の頭をなでた。
「私の見立てではね、メロウ。お前さんは太陽の精に恋をしている。いや、させられたといったほうが正しいかもしれん。太陽の精がいつも自分を見ているお前さんを自分のものにしようと魅了したのだろうな」
「そんな!」
恋とは自らの心の動きではなかったのかとメロウは戸惑った。それが太陽の精に魅入られて魅了の力を使われたとは、魅了の歌を歌う水の妖精として恥ずかしい。
「メロウ。太陽の精はやがてお前さんをこの河から引きずり出そうとするだろう。しかし我らはここから離れればたちまち消えてなくなってしまう。あれはこのことを承知の上だ。命を賭して恋をするか、それとも魅了から抜け出そうともがくか、それはお前さんしだいだよ」
「私、しだい……」
大ばばさまが肯いた。
「私と会うのもこれが最後かも知れんな。どれ、お前さんにこれをやろうか。手をおだし」
出した手のひらに大ばばさまが巻貝を乗せる。
「昔人間がこの河に落として行ったんだ。……私が愛した男がね」
「大ばばさま……」
「私はあの男にだけはとうとう魅了の歌を歌えなかった。だけどメロウ」
「はい」
「たとえ相手が太陽の精だって、恋は悪いことじゃない。不本意なものでも、命を賭したものでも、お前さんは精一杯恋をして、その上で決めるんだよ」

ソルと名乗る金色の着物を纏った青年が現れたのはその数日後だった。
「僕はソル。あなたが僕を見ているのに気が付いて、僕もあなたを見ていた。そのうちに……あなたを好きになった。メロウ」
「は、はい……」
目の前に起こっている出来事が理解できないメロウに、ソルは一言一言噛み締めるように言い含めた。
「水の妖精の気まぐれでも構わない。僕を恋人にしてほしい」
それはどこまでも真摯で、何よりも美しい青年の愛の調べだった。彼女は狼狽えながらも、それでもはっきりと自覚した。
(私は……この人に今、恋をしてしまったんだ)

それからの日々はメロウにとっては夢のようなものだった。昼間にだけ逢える太陽の恋人との語らいはとても楽しくて、自分が水の妖精だということを忘れてしまいそうになるほどにソルを愛していた。
「メロウの髪はどうしてそんなに美しいの?」
ソルがメロウの髪を撫でながら問う。
「もっと美しい水の妖精はたくさんいるの。でも……そうね、この河が綺麗だからかしら」
くすぐったさにメロウが身をよじると、ソルはふざけて彼女の身体を抱きしめた。
かすかな焼け付くような痛みが、彼女の全身を襲った気がした。

「メロウ」
ある晩、アトリがそばへと泳いできた。
「あんた、太陽と恋してるの?」
「……ええ」
アトリはそう、とため息をついた。
「私たちはこの河から離れたら死んじゃうのよ?あいつは絶対あんたをここから攫っていく気でいるわ!」
忘れかけていたことを目の前に突きつけられた気がした。
アトリの言うとおり、ソルはいずれメロウを自分のもとへと迎えようとするだろう。それは彼女にとっては死んでしまうのと同じ。そしてまた、ソルがこの河で暮らすことも出来ないだろう。彼は太陽の精で、同じように太陽が沈んでしまったらこの世に生きてはいられないのだろうから。
「そう……よね……。私、そう大ばばさまにも言われたのに」
本当はソルと恋などするべきではなかったのだ。彼ともう逢わないでおけば今ならまだ間に合うかもしれない。けれどもソルが愛しい。ソルに逢いたい。その気持ちがメロウの水の妖精として取るべき行動に邪魔をする。
「メロウ。もう今のあんたじゃ間に合わないわ。だけど……だけど、ね」
アトリが言い淀む。
「だけど……何?私は間に合わないんでしょう?」
「一つだけ……方法があるの」
そう言ってアトリは一本のナイフを差し出した。きらきらと刃が月光に反射して光る。メロウはそれを美しいと思った。
「月の光を溜めたナイフよ。……それで太陽の精を、刺しなさい。大ばばさまに預かってきたわ」
見ればアトリの胸元には綺麗なペンダントは揺れていなかった。
「アトリ……」
「大ばばさまに預けてきたの。確かにあの人に申し訳は立たないけど……あんたを救うためには、こうするしかないの」
アトリは笑った。その微笑みが寂しそうで、メロウは思わず尋ねる。
「何でそんなこと」
「メロウ。私はあんたの友達よ。友達を失いたくないの。……たとえ、恋が叶わなくても」
「アトリ……」
どうすればいいのだろうとそれからメロウは考えた。愛する人そのものといっても良いものと引き替えにアトリはメロウの愛する人を殺す道具を持ってきた。使わなければメロウは死んでしまうだろう。けれどもソルを殺すことなど出来はしない。けれどもこのまま何も言わずにいたらどちらかが死んでしまう。
胸に抱いた巻貝はただただ優しくメロウを包む。けれども今の彼女にはそれがかえって辛かった。
「不本意でも……命がけでも……精一杯、か」
精一杯ソルを愛したつもりだった。けれど、かえってそれが今、彼女を苛んでいた。
「どうすれば……いいの……」
水底から仰いだ月は、何も言わずにただ冷たく輝いていた。

ようやくメロウに決心が付いた頃、ソルから結婚を申し込まれた。
「僕はメロウを幸せにしたいんだ」
「ソル……」
自分はこの人を心底愛しているのだとメロウは思い知った。この人と別れる痛みはどれほどだろう。
けれども、そうしなくては二人は死んでしまうのだ。
「メロウ?」
「あのね、ソル……私、あなたと結婚することは出来ないの」
「この河を……離れられない?」
メロウは頷いた。ソルの顔いっぱいに悲しみが広がる。
「私はこの河を離れたら死んでしまうわ。あなただって、太陽が沈んだあともここにいたら死んでしまうでしょう?」
「僕は……それでも、僕が死ぬことになっても……構わないのに」
悲しみのあまり涙さえ浮かべるソルに、メロウは首を横に振る。
「私はソルに死なれてしまったら生きていけないわ。けれど、私が死んだら……きっとあなたも悲しむと思うから」
「メロウが死んだら僕だって生きていけない!だから……」
「ごめんなさい、ソル……私は、これからあなたの思い出を宝物にして生きていくわ。……だから」
メロウは月光のナイフを取りだし、ざくりと髪の毛を切り落とした。
「私、こんなものしかあげられないけど……それだけは河を離れたら小さな宝石になるはずだから」
「メロウ……僕は、太陽のでている間にはずっとここに来る!だからもうお別れみたいなことを言わないで!」
はらりとソルの美しい両目から真珠のような涙がこぼれ落ちる。それでもメロウは首を横に振った。
「もう、ずっとお別れよ。……これ以上一緒にいたら、もっとあなたを好きになってしまうから」
それだけ言って、メロウは水の底へと潜り込んだ。
「メロウ!」
覚悟していたことだけれど、やはり辛くて辛くて泣きそうな彼女の耳に、暖かい愛しい声が入り込む。涙をこらえて再び水面を仰ぐと、太陽の光を固めたような宝石のペンダントがそっと差し入れられた。
「これが僕の愛のあかしだよ!これでお別れになっても、僕はずっとあなたのことを忘れない……永遠に愛し続けるから!」
その言葉が嬉しくて、けれども辛くて、メロウは水面に向かって精一杯微笑んだ。
(永遠に私もあなたを愛します……)
今はそれだけが、彼女が最愛の太陽の精に出来るただ一つのことだった。

その後、メロウと呼ばれる水の精が歌うことはなくなった。けれども彼女はそのペンダントを何よりも大切に持ち歩き、時には太陽を恋しそうに眺めた。
ただ一人、愛した太陽の精を想いながら。
おわり
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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