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怪奇事件縁側日記「地下牢の天使」2

お久しぶりです。レポートやら何やらやってまして……更新が遅れてしまいました。
今回は縁側日記の続きです。
では、どうぞ。

怪奇事件縁側日記 夏の2
「地下牢の天使」

6月。8月の終わりに文化祭のある菊花学園高等部では、まさにその準備に忙しい時期である。
文化祭。
それは学校行事の中でも特に人気の高い行事だ。何処の学校でもそれは変わらず、この菊花学園も例外ではない。勉強三昧の学校生活の中で思いきり羽を伸ばせる数少ない行事だからだろうか。
故に、実力テストが終わった後のホームルームで文化祭(菊花学園高等部では『菊花祭』といった)の実行委員が出し物を決めると宣言した時、クラス中が歓喜したのである。
「……吹奏楽があるからそんなに協力は出来ないけど」
室宮涼香はその歓喜の渦の中で少しだけ溜息を吐いた。
「あ、でもやっぱり楽しみなんだ?」
その呟きはどうやら隣の席の樋口優に聞かれていたらしい。彼女はニコニコと笑って問い返す。
「……まぁ、ね」
室宮涼香がどれほど低血圧であろうと菊花祭が楽しみでないはずがない。そもそも低血圧と菊花祭は何の関係もないし、涼香は毎年菊花祭を楽しんでいる。
「菊花祭、なんか何でもアリだもんね」
「そろそろ学校側から規制がかかりそうな気がしないでもないけど……」
菊花祭は私立菊花学園の行事の中でも特に派手な行事だった。まだ暑いということもあってかシンクロナイズドスイミング(もどきの水遊び大会)が行われたり、調理部が体育館を使ってお菓子の城を築いたりととんでもないことをする団体が増えてきているというのが理由だった。しかし何故か学校側から規制はかからず、年々派手になっている。
涼香がふと黒板を見ると、いつの間にやら2年B組は演劇をやることになっているようだった。演目は『オペラ座の怪人』。
「……?」
教室の中がざわついている。とんとんと後ろから肩を叩かれ、振り向くと神城明日華が耳打ちをした。
「……どうも、情報屋です」
「……はいはい、怪談怪談」
適当にそう返事すると、明日華はふくれっ面をしてまた囁いた。
「クリスティーヌ役……朝倉さんか月河さんで決まりかな」
「あんた立候補したら?」
そういえば明日華は歌も好きだったと思い出して返せば、彼女はゆるゆると首を横に振った。
「いいよ、私は……」
「……そう……。どっちになるのかしらね」
『オペラ座の怪人』のヒロイン、クリスティーヌ・ダーエ。パリのオペラ座で『音楽の天使』から指導を受けてコーラスガールの端くれからオペラ歌手への階段を駆け上っていき、それと同時にオペラ座のスポンサー・ラウルに愛された少女である。
朝倉舞子は合唱部に所属しており、歌手としてクリスティーヌ・ダーエを歌うのには申し分ないと言えよう。大学は音大に行きたいという彼女の歌声は、聴く者がなるほどと納得するだけの美しさと力強さに溢れている。一方月河アサミは演劇部に所属しており、舞台女優としてクリスティーヌ・ダーエを演じるのには申し分ないと言える。ゆくゆくは何処かの劇団に所属したいという彼女は歌も素晴らしく、柔らかさと明朗さを兼ね備えていた。どちらがクリスティーヌを演じても劇の評判は上々だろう。
「……ところで、菊花学園で『オペラ座の怪人』やるの、10年ぶりらしいわよ」
「……え」
明日華の囁きに涼香はぎくりと身を強張らせた。
「まさか……」
「ファントムが行動の地下に住んでる、って話?」
ひょこりと隣の席の樋口優が話に参加する。
「そう。あれって実例あったの?」
涼香が問い返せば優の後ろの高見唯奈がどうだったかしらと呟いた。
「確か七不思議でしょ?」
「青薔薇がそう言ってたわ」
ホームルームでは文化祭の出し物が決まったところで、次は係を決めようという話になっていた。
「クリスティーヌ役、やりたい人いますか?」
実行委員のその声に上がった手は2つ。
「朝倉さんと……」
一人は朝倉舞子。
もう一人は長くふわふわの髪を三つ編みにした少女だった。顔を緊張に強ばらせ、頬を真っ赤に染めながら彼女は手を挙げていた。
「来栖、さん……」
彼女は来栖恵蓮というクラスメートだった。


濡れた石畳にコツコツと足音が響く。
彼は楽譜を綴っていた手を止めて顔を上げた。
「誰だ?」
「私よ」
聞きたかった声。声の主の名を呼ぶと、彼女は暗がりで微笑んだ。
「ねえ、先生。今度の文化祭で『オペラ座の怪人』をやるの」
『オペラ座の怪人』。もう何度も読み古した小説の名前に彼は少しだけ驚いた。
「知ってるの?」
「愛読書だ」
「まあ。……それでね、私……立候補してみようと思って」
美しいソプラノが色を帯びる。この声でクリスティーヌ・ダーエを歌うのなら舞台は素晴らしいものになるだろう。彼は僅かに微笑んだ。
「君のクリスティーヌ・ダーエを聞いてみたい」
その瞬間、ふわりと微笑みが陰るのを感じる。
「クリスティーヌはきっと別の人よ。私……メグに立候補しようと思って」
「……君は歌手になりたいのでは?」
「なりたいわ。でも、私……私のクラスには歌が上手い人が沢山いるの。だから、いいの……」
それは諦めだった。すでに咲く小さな花たちにこれから開く大輪の花が邪魔されてよいものだろうか。彼は何としてでも彼女の夢を叶えてやりたかった。
だから、言う。
「クリスティーヌ・ダーエを歌ってごらん。やめるかどうかはそれから決めればいい」
「……やって、みるわ」
信じると、彼女は言った。
だから彼は決めた。
彼女にクリスティーヌ・ダーエを歌わせることに。

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テーマ : 連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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