FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

水の乙女

お久しぶりです。テストやレポートやサークルの原稿に追われてました。
そういうわけでサークルに提出した原稿です。〆切に間に合って良かった……。
では、どうぞ。

「水の乙女」


ある夜、山間の小さな村から一人の少女が失踪した。失踪した少女は村の男達が総出で探してもついに見つからず、村の女達は少女は神隠しにあったのではないかと噂をし始めた。少女を見初めた水の神が、彼女を連れて行ってしまったのではないかと。

山の中で木を伐っていると、不意に手の中から斧が滑り落ちていく感触を覚えた。次いで聞こえたのはその斧が川の中に落ちたことを知らせる水音だった。
「あちゃあ……参ったな」
斧を落とした張本人である風太は己の失態に頭を抱え、気を落としたような溜息を吐いた。
彼は山間の小さな村で名主に仕える下男だった。七つの頃から名主に仕え、今年で十年になる。風太が山の中にいるのは木材を切り出すためだった。しかし斧を落としてしまっては仕事にならない。しかも悪いことに、その斧は名主から借り受けた命の次に大切な品。拾って帰らなければ叱られるに違いない。
「旦那さま怖いし、叱られるのだけは嫌だなぁ……仕方ない」
風太は溜息をもう一つ吐くと川の中へと足を踏み入れた。ひやりと澄んだ水を掻き分け、斧を捜して歩いて行く。入ってみて分かったことだがこの川は幅が広く、流れも緩やかだった。しかも意外に深い。腰まで水に浸かりながら風太は斧を見つけようと目をこらしながら歩いた。深いからか日が傾いてきたからか、斧はいつまで経っても見つからない。
「……俺、このまま鳥になるのは嫌だなぁ」
彼の村には日暮れまでに捜し物を見つけられないと鳥になってしまうという伝説がある。伝説はあくまで伝説なので素直に信じているわけではないが、村の老婆がさも尤もらしく語るので村の若者達は日暮れまでに見つからない捜し物はしない習慣になっていた。だから彼も出来るだけ日が暮れる前に斧を捜し出したいのだが、黒く光る刃やクヌギの柄の端さえも彼の視界には入らない。しかも空を見れば青かった空は橙色に染まり、太陽も随分西へと傾いている。
「うわぁ……仕事も終わらねぇし斧は落とすし……ああ、絶対に旦那さまのお叱りものだぁ……」
頭を抱えて嘆きながら岸辺へと向かう。
そのときだった。
「……?」
自分が立てるものよりもずっと小さな水音が、ぱしゃりと聞こえた気がした。
「誰かいるのか?」
答えはない。辺りを見回しても誰もいない。聞き間違いだったのだろうとまた歩き出す。
そうするうちに、すとんと日が落ちて目の前が暗くなった。

気が付くと風太は布団の中にいた。
「……ここは……?」
頭を抑えて辺りを見回す。部屋の雰囲気は名主の家のそれによく似ていたが、ここが名主の家ではないことを自分が普段使うものよりも上等な布団が示していた。
自分が何故ここにいるのか、そもそもここは何処なのかを風太が考えていると襖が開いて人が入ってきた。
「お目覚めですか?」
それは美しい少女だった。蝶の模様を織り込んだ艶やかな白い小袖を纏い、艶やかな黒髪を端の方で一つに結んでいる。透き通るように白い肌に黒く引かれた眉と紅をさした赤い唇がよく映えていた。しかし風太は少女に違和感を覚える。
「あなたが俺を?」
「水の底で倒れていらっしゃったので……ご迷惑でしたか?」
この少女の姿を彼は知っているのに、態度が全く違うという違和感が彼の中から拭えない。
「いえ、ありがとうございます。……あの、あなたのお名前は?」
少女は袖口を口許に当ててしばし考え込む。そして、ぼんやりとした表情でわかりません、と答えた。
「わからない、とは……」
「私は気が付いたときにはこの屋敷にいたのです……もしや、あなたは私のことをご存じで?」
「いや……俺が昔仕えていた方に似ていたものですから。……ところで斧を見ませんでしたか?」
彼女は斧、と繰り返し、立ち上がると部屋を出た。何とはなしに付いていくと、機織り機のある部屋へと通される。織りかけの布のそばにそれは立てかけてあった。
「こちらの斧でしょうか?」
年季の入った黒い斧。それはまさしく名主から借り受けた斧だった。彼が頷くと彼女は微笑んだ。
「それならばどうぞお持ちください。……あの」
「はい?」
何か言いたげな少女は少しの間逡巡していたが、やがて躊躇いがちに口を開いた。
「……私のことを、誰にも話さないでください。そうすればあなたが働かなくとも暮らしていけるようにしますから」
奇妙な約束だと風太は思った。内密にすれば働かなくとも良いとは彼だけに都合が良いのではないか。それを問うと少女は微笑んだ。
「私はただ、約束を守ってくれるあなたにお礼がしたいだけですから」

少女に別れを告げると、彼女はやけに神妙な顔をした。
「どうしたんです?」
「いえ……あなたは私がお仕えしていた方に似ていると仰いました」
「はあ、言ったような気もしますが」
「あの、その方の名はなんというのですか」
「お嬢様のお名前は……雪さまといいました」

その後、村に帰った風太は山で何があったのかを一切喋らなかった。下男仲間からは神隠しにあった者だと遠巻きに見られたが、その代わりに面白いほどに金が貯まり、彼は二月ほどで下男をやめた。食べ物にも着物にもさして余裕はないが、困りもしない程度に金は貯まった。貧しい村の男達はどうしたらそんなに金が貯まるのかとしきりに風太に問うようになった。
「あぁ、それはなぁ」
水底の乙女に助けてもらった、と何度も言いそうになってすんでのところで留まった。
そんなことが何回も続いたある日、名主が風太の家を訪れた。
「風太。お前は神隠しにあった時、山に入っていたな」
「はあ、そうですが」
「その山で、娘を見なかったか」
「お嬢様でございますか?」
名主は深い溜息を吐いた。
「……風太。娘は鬼に食われたのだとずっと思うてきた。男という名の鬼と共に死んだのだと思うてきた。だが、鬼の亡骸は見つかっても雪の亡骸は見つからない。もしや生きているのではと思うてな……」
名主の顔は今や娘を亡くした父親のそれだった。この男はどんなに雪を探しただろう。雪がいつ帰ってきてもいいように屋敷の裏にある勝手口がいつも開いているのを風太は知っている。だから、言わずにはいられなかった。
「伐っていた木の傍に、川がございました。……その川の底に、お嬢様によく似た女子が。……機を織っているようでした」
「女子の名前は?」
「その女子も、気が付いたら水底にいたので分からない、と」
そうか、と名主は言った。

娘を見つけるために川へと名主が向かったのはその次の日のことだった。名主に請われて同行した風太は久しぶりに川を見た。
「このあたりでした。俺が斧を落として川に入ったんです。……こんなふうに」
水の中に足を浸す。腰まで浸かりながら歩いて行く。
「斧を捜したんですが、なかなか見つからなくて……」
当時のことを話す風太の耳に、ふと微かな女の声が聞こえた。
「……?」
「どうした、風太」
「いえ、なにも」
『……もの』
答えた瞬間にまた聞こえた。念のために岸辺にいる名主に尋ねる。
「今、何か女子の声がしませんでしたか?」
「いや……何も聞こえなかったが」
「じゃあ俺の聞き間違いか……」
風の音か水の音だろう、そう風太が思い直したときだった。岸辺の男達が恐ろしいものでも見たような顔つきになった。
『聞き間違いではないわ、裏切り者』
首筋に触れる冷たい指の感触に背筋が凍る。風太の身体に絡みついたしなやかな白い腕の力が強くなる。
「え……」
『誰にも話すなと言ったでしょう?それなのにあなたは話してしまったのね』
その声は水底の乙女のもの。声は恨みと哀しみに満ち溢れ、風太は声を出すことすらままならない。
『あなたがあの日、私の名前を教えてくれた。……そうよ、私は雪よ。……もう何年も前に愛した殿方と逃げたのに、盗賊に襲われて水底に沈んだ娘よ』
怨嗟の声は続く。
『あなたの口を封じたのはお父様に知られたくなかったからよ。私が死んで異形になっているなんて知られたらお父様はきっと悲しまれるから……それをあなたは知らせてしまった。恨むわ、風太』
「ゆ、雪……お前……」
名主の狼狽える声が聞こえる。彼女は短い溜息を吐くとさらに腕に力を込めた。
『さよなら、お父様』
全ての感情を抑え込んだ雪の声を最後に、風太の意識は暗い水底へと沈んでいった。
終わり
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

最近の記事
これ以外にも、NOVEL INDEXを随時更新中です。
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
二次創作は「その他創作」からどうぞ。
FC2カウンター
FC2カウンターおんらいん
現在の閲覧者数:
無料カウンター
ブログランキング
FC2 Blog Ranking にほんブログ村にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説にほんブログ村 ホラー・怪奇小説 長編小説 air-rank
サーチ様
検索エンジン Mono Search
ブログ開始から何日経った?
ブログ内検索
リンク
相互リンクサイト様、素材サイト様、管理人別サイトの紹介です。
このブログをリンクに追加する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。