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「蝶の導く先」

お久しぶりです。なかなか書き物が進まずに演習やらでバタバタしています。
そんなわけでサークルのほうに出した原稿を載せたいと思います。
こっちに載せていいのか凄く悩むほど暗いお話でした。
では、どうぞ。

「蝶の導く先」

 幼いころ、彼女は蝶々が大好きだった。あの色とりどりの翅が好きだったのだ。またその翅に触れて蝶々を捕まえて、そうして虫籠の中に入れて彼らが舞う様を見るのが好きだった。
 ある時彼女の母が言った。
「蓮華、蝶々をあまり捕まえてはいけないよ」
 まだ幼い彼女――蓮華にはそれが何故なのかはわからなかった。だから蓮華ははいと返事はしたものの、それからも蝶を捕まえては虫籠に入れて遊んでいた。蝶々には砂糖水と止まり木を与え、白や黄色や青の翅が羽ばたくのを毎日飽きもせずに眺めていた。
 またある時、彼女の母が言った。
「蓮華、蝶々をあまり捕まえてはいけないと言ったでしょう?」
「だってお母さん、蝶々可愛いんだもの」
 母の白いエプロンを掴んで唇を尖らせれば、母は溜息を吐いてこう言った。
「お母さんは蝶々が好きじゃないの」
 母が蝶々を好きではないというのは蓮華にとっては初耳だった。
「なんで?」
「何でもいいでしょう?そんな狭い虫籠に何頭も突っ込んで……逃がしてやりなさい」
 本当はひらひらと薄い翅を羽ばたかせる宝物を逃がしてやるのは惜しかった。けれど、そのときの母の表情のない顔があまりにも恐ろしくて、蓮華はしぶしぶ虫籠の蓋を開けた。
 蓋を開けると蝶々のうちの何頭かは広い世界へと飛び出していった。しかし逃げ道が見つかったにも拘らず数頭は虫籠の中でじっとしていた。
「全部逃がしたの?」
「出て行かない子がいるの」
 母は再び溜息を吐いて、貸してみなさいと言った。本当は逃がすのならば自分の手で逃がしてやりたかったが、母がそういうのならば仕方がないと虫籠を渡した。
「後はお母さんがやっておくから、蓮華は勉強しなさい」
「え……」
 母は蓮華に背を向けて言った。
「蝶々で遊んでて、この間のテストがどれだけ悪かったと思っているの?」
「でもそんなに悪くないもん!」
テストといっても小学校でやるようなものである。順位などつけようがないだろう。
しかし母はそのテストを引き合いに出して今、蓮華を叱っているのだと彼女は理解する。けれどもそれはあまりにも理不尽で、小学生の彼女にはただただ母の横暴のように感じられたのだった。
「あなたはお母さんの言うことを聞いていればいいの!」
そう叫んだときの母の背中が恐ろしくて、彼女は肯定以外の返事などできるわけがなかった。だからくるりと母に背を向けて、隣の部屋に駆け込んでまるで何か恐ろしいものから隠れているように息を潜めていた。

それから数年が経ち、蓮華は成長して少女と呼べる年頃になった。本物の蝶々を捕まえることはもうなかったけれど、相変わらず蝶々は好きで、折を見つけては母に隠れて蝶々の柄の小物を買っていた。
 ある時、彼女の母が言った。
「蓮華、蝶々で遊ぶのをやめなさい」
「もう蝶々を捕まえて遊んでないわ」
「そういう事じゃないの。アクセサリーにしても何にしてもどんなものを買ってくるかと思えば蝶々ばかり……お母さんが蝶々を嫌いなの、知っているでしょう?」
知っている。幼い日に蝶々を逃がしなさいと言われたときにそのことを聞いた。
だからこそ彼女は母に見つからないように買っていたのに。母に見つからないように自分の部屋のクローゼットの一番奥にしまっておいたのに。
「お母さんはどうしてそのことを知っているの?」
蓮華しか知らないはずの宝物の場所を、どうして母が知っているのか。それを問うと母はふと微笑んだ。いつも蓮華が見ている優しい微笑みではない。人が怒りのあまり正気を失うときはこういう表情なのだろうと思わせられるような、背筋が凍るような何の感情も表さない微笑みだった。
「どうしてって……調べたのよ」
「なんで!」
「お父さんが呼んでいる気がして……」
「お父さん、って……」
蓮華の父親は確かに彼女が生まれる前に他界した。だが、それと母の行為がどう関係するのだろう。
「蓮華……お母さんはお父さんに会いたいの。蝶々になって飛んで行っちゃったお父さんに会いたいの」
「お母さん……」
「蓮華も会いたいでしょう?蝶々は死んじゃった人の魂が化けているのよ。お母さんはあなたの顔も見ずに蝶々になったお父さんが少し嫌いだったの。……でもね、お父さんが蝶々になって会いに来てくれてるって思ったの……蝶々が嫌いなお母さんのために蝶々の小物になって……でも違ったみたい……ねえ蓮華」
母の顔は微笑んではいなかった。いや、そこにいるのはもはや母ですらない。ただただ故人に会いたいと願い、支離滅裂なことを口走って縋るだけの、ただの一人の女だった。
けれども蓮華は知らない。父の魂が蝶々になっているかなんて、知らない。
「お母さん、ちょっとお父さんに会いに行ってくるね……すぐ戻るから」
そう言って母は立ち上がった。
「お母さん!」
「……お母さん、もう疲れちゃったの……ねえ蓮華」
「うん……」
「お母さん、お父さんが蝶々になって来てくれるのかもしれないって思ったときから、本当は蝶々のこと、ちょっとだけ好きだったのよ」
「お母さん……」
「お父さんがあなたに蝶々を飼うように言ったのかなって思ってたけど……違ったって分かったらやっぱり嫌いになっちゃったみたい」
母が何を言っているのか、蓮華には分からない。ただただ母を呼ぶことしかできない自分がもどかしかった。自分の前から歩き去る母を止めることも出来ない自分に苛立った。
「お母さんっ!」
「すぐに戻るから……お母さんも、蝶々になってくるだけだから……」
「行かないで、お母さん!」
そして、母は一度だけ振り向いて言った。
「蓮華、あまり蝶々を捕まえて遊んではいけないよ……」
その母の顔は憑き物でも落ちたかのように穏やかだった。

それきり、母は母に戻ることはなかった。
蝶々のことはさておいても、優しかった母に戻ることは叶わなかった。

強い風が彼女のスカートを揺らす。長い髪の毛を乱す。
空が近い、と彼女は感じた。
雲一つない、どこまでも青い空。
「蝶々……飛んでない……」
母が蝶々になろうとした昔の日も、青い空だった。
だから彼女は空の青を瞼の裏に刻みつける。
(ごめんなさい)
(蝶々を捕まえて遊んでごめんなさい)
(あれから私は蝶々で遊ぶのをやめました)
(だから、私を許してください)
(私を蝶々にしてください)
長い髪の毛が棚引いて、スカートがはためいて、蓮華は瞼の裏に確かに蝶々の影を見る。そうして、その蝶々の幻に幼い頃のように手を伸ばす。

蝶々が一頭、青い空へと消えていった。その美しい翅を羽ばたかせながら。
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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