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「あるメイドの回顧録」

久しぶりに探偵日記ですが、ネタは全然新作ではありません。「魔女の狩人殺人事件」の後日談です。
……お酒入ってるから誤字が凄くて色々大変でした。
では、どうぞ。

杉田真由子の探偵日記「魔女の狩人殺人事件」短編
「あるメイドの回顧録」

あるメイドの回顧録

神様。
私はあなたを愛していました。
私はあなたを怨んでいました。
私の中にはあなたに対して二つの感情があったのです。
何故かはお分かりかと思いますが、私の胸中に渦巻く思い出故だったのです。

スターアイ・グループのルールを適用されたとはいえ、やったことはやったこと、としてケリーもアニーもロンドン警察の事情聴取を受けた。ヴィオリアの末裔だと言っていたサリア……いや、ヴァイオレット・ローズマリーは殺人教唆の罪で逮捕されてしまった。この家に残っているのはメイドと婚約者を失ったメアリ・ローズシープだけとなってしまった。
「……これで最後……か」
彼女は住み慣れた屋敷の掃除を終えて、溜息を吐いた。父親がリストラさえされなければ関わることもなかったであろう屋敷は、今では彼女にとっては家のようなものだった。
けれど、それも今日で最後。
ケルヴァーン・アトラスは本日、7月17日をもってローズシープ家のメイド・ケリーとしての役目を辞する。
それは決してメアリのためだけではなく、先に辞めたアニュエールのためだけでもない。
彼女自身のために辞めるのだ。

『でも、私たちは物理的に存在しています!妖精じゃありません!』
あの日、日本の探偵にはなった台詞は、同時に彼女たちの真実でもあった。スターアイ・グループのルールの中で、使用人は紛れもなく妖精だった。戯れに文字を落書きし、食事に毒物を混ぜ、ヴィオリアに付き従うだけの、力も意志もない妖精。存在感なんて皆無だし、何よりも主人以外の命令に従うのが辛かった。ダイアナ達の好き勝手で、段々と冷えていくスターアイ・グループを見ているのが辛かった。
ケリーにとっての主人は、ダイアナやメアリの父親であるジョンソン・ローズシープただ1人だった。いつもメイドに丁寧に教育を施してくれて、給仕なんてやったことが無くてミスの連続だった彼女は数日でそのミスを減らすことが出来た。そうすると彼は優しく笑って褒めてくれたのだ。
どこか温かみに欠けたこの家で、彼の存在だけが温かかったのだ。
それは紛れもなく恋だったのかも知れない。
けれど彼女はメイドで、彼は主人だった。決して実らせてはいけない恋だから、ケリーは心の奥底にしまい込んでいたのだった。
けれど、と彼女は思う。
永遠に叶わない片恋だからこそ、彼女はこの屋敷で働き続けていられたのだろうと思う。恋をしている間だけ、彼女は妖精ではなく人間に戻ることが出来たのだから。

階段を降りてゆくと、メアリが上がってくる所だった。
「ケリー、掃除は終わったの?」
「はい、メアリお嬢様」
「そう……これでもうあんたの顔を毎朝見ることもないのね」
「……はい」
「用意できたら、私の部屋に来なさい」
はい、と返事をして、ケリーはメアリの後ろ姿を眺めていた。
(やっぱり、おやつれになって……)
彼女の女主人は事件以来やつれて生気のない表情をすることが多くなってしまった。それはとても悲しいことだけれど、ケリーにはとうとうどうすることも出来なかった。
それだけが心残りと言えば心残りなのかもしれない。
サリアが逮捕されて、身内をいっぺんに失って、その上姉たちがしていた所行を白日の下にさらされて、メアリはショックを受けたに違いない。彼女は真実の半分も知らなかったのだから。
メアリ・ローズシープはホワイトローズホテルの経営状況を知らなかった。事件の切っ掛けになったのは確かに株を売り払ったからで、ダイアナ達の野心が引き起こした経営縮小だった。けれど、メアリはその件に関与していなかったのだ。確かに会社では重要な役職に就いていたけれど、彼女は経営に関してはノータッチだった。それなのにレオナルドと婚約し、曲がりなりにも彼女は彼を愛した。その点では彼女も巻き込まれた被害者に過ぎないのかもしれないとケリーは思う。
(あの日本の探偵の……真由子さんならなんて言うかは分からないけれど)
『たしかにあなたたちから見れば彼らは魔女ですし、同時に魔女狩りの村人です。……でもね、私たちが生きているのは現代のロンドンで、妖精さんも魔女もいないんです。ねぇ、彼らを殺してもあなたが行き着く先は地獄なんですよ?たしかに自分から毒を呑んだヴァレンスさんたちは地獄行きでしょう。そうでなくても地獄行きだと思いますけれど……でも、あなたたちまでお供する謂われはないんじゃないですか?』
あの探偵は最後までヴィオリアという存在を知ろうとしていた。日本人だからかもしれない、とケリーは思う。魔女の存在を肯定する態度でも否定する態度でも無かったのは、真由子の出身が妖怪の沢山いたという国・日本だからかもしれない。自分の持ちうる知識を全て使い、聖書まで読んで(一晩で読めたのかどうかは疑わしいが、一応は読んだと思わしい)魔女の存在を理解しようとしていた。
「もしかしたら……本当の『魔女の狩人(ウィッチハンター)』はあの方だったのかもしれないわね……」
命を奪うのではなく、魔女を理解し、人間と同列に語る。それはもしかしたら魔女にとっては命を奪うに等しい所行なのかもしれないから。
けれど、感謝している。
事件を解決してくれたおかげでスターアイ・グループの残されたメンバーは自分の所行を考え直すことが出来たのだから。

メイドの控え室に戻る。自分を迎えてくれた人達はもういない。がらんとした部屋の一角に、ぽつねんとケリーの荷物があった。本日の仕事を始める前に纏めて置いた荷物だ。元々この家に持ってきた荷物は少ない。清書と、日用品と、衣類、食器、手帳。それだけだ。
クローゼットを開けると、自分の私服だけがぽつねんと掛かっている。
その光景がなんだか寂しかった。
ケリーが勤め始めた頃、ローズシープ家には毎日10人程の使用人がいた。だからクローゼットの中にはいつも自分以外の誰かしらの服があったし、賑やかな職場だったのだ。けれど、あの事件の時、使用人は3人だった。原因は知っている。ジョンソン・ローズシープの死だ。ジョンソンはほぼ一年前、肺炎で入院していた。そして使用人達の祈りも空しく結局帰らぬ人となった。ジョンソンの死を契機に全部で数十人いた使用人はほとんどがその職を辞してしまったのだった。
自分用にあつらえたメイド服に手をすべらせる。
(私はあの事件の時、アニュエールに辞めてしまえば良かったって言ったけど……それは本当に私の本心だったのかしら……?)
あの時はアニーがあまりにも泣くのでそう言ってしまっただけだったのかもしれない。あるいは自己保身のためだったのかもしれない。
結局、真由子に犯人を告げて殺人劇を止めさせるだけの度胸が自分になかった、それだけだろう。
机の引き出しから一冊の冊子を取り出す。
「使用人仕事説明……懐かしいわ」
かつて自分も読んだ冊子。
明日からはまた別のメイドが新しく来る。彼女はこれを読み、メアリを主人と仰いでゆくのだろう。
だからケリーはその冊子の一番最後にメモを挟んだ。
『メアリお嬢様をよろしくお願いします……名も無き妖精より』
そう願いを託して。

荷物を持ってメアリの部屋の前へ立つ。
「お嬢様、ケリーでございます」
「支度はすんだの?」
「はい」
ドアが開く。メアリが顔を出す。
「一年間、よくやってくれたわね」
「ありがとうございます」
「……元気にやりなさい」
「はい……お世話になりました」
辞表を渡すとドアが閉まる。
もう二度と歩くことのないローズシープ家の廊下を踏みしめて、ケルヴァーンは外に出た。ハーブの十字架を飾った扉を閉めると、門の前に見慣れた人影を見つける。
「……アニュエール……」
「お疲れ様、ケルヴァーン」
アニュエールの優しい笑顔に、彼女もつられて笑顔になる。
二人でいるときが一番幸せだと感じて、ケルヴァーンは空を見上げた。

神様。
私はあなたを怨んでいました。
私はあなたを愛していました。
けれど、私はようやく分かったんです。
あなたに依存してばかりでは、私はただの妖精なのだと。
ですから、私は1人で歩き始めます。あなたが見ていてくださることを信じて。
ああ、でも許されることならば願わせてください。
願わくば、メアリに、スターアイ・グループの元メンバーに、そして日本の奇天烈な探偵達に幸があらんことを。
親友と隣同士で歩いていることで感じる幸せのようなささやかなもので良いから、どうか彼女たちに幸福を。
この世に生きている事への祝福をお恵みくださいませ。

「どうしたの、ケルヴァーン?」
「……何でもないわ、アニュエール」
夏の日差しが、彼女たちの上に降り注いでいた。

おわり
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テーマ : 連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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