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三題噺

これが元ネタでちょっと書いてみました。三題噺です。お題は「大根」「ネクタイ」「一番始めの記憶」
では、どうぞ。

私の中には様々な記憶がある。
二人きりの夏を過ごした記憶や、フリーマーケットで可愛いワンピースとアクセサリーを買いあさった記憶、修学旅行でソフトクリームを食べた記憶、エトセトラエトセトラ。
どれもこれも私が1人では蓄積できなかった記憶だ。

中でも印象深いのは一番始めの記憶。
私が初めて目覚めたとき、辺りは檜の香りがした。目覚めた私を見て、あの人は一言素っ気なく言ったのだった。
「目覚めたか」
だから私も素っ気なく応じた。
「はい」
それを見て、あの人は残念そうに溜息を吐いて言ったのだった。
「この部屋はお前の城だから、何に使ってもいい。……燃やしたりしなければ」
「失礼ですね、私はそんなミスはしません」
流石にむっとしてそう言い返すと、あの人は微かに笑ったのだった。
「そうか、さすがだな」
その微笑みがあまりにも儚くて、私は暫く見ていたのを覚えている。
それが一番始めの記憶。あの人と出会った、私が目覚めた最初の記憶。

それが今ではその人の家に住むようになって、私は毎日家事をこなしている。
毎朝あの人を起こして、朝食を食べさせて、お弁当を持たせて送り出す。
その後で寝室の布団を干して、洗濯をして、掃除をして、小休止。お昼はだいたいテレビと新聞で情報を補って、午後からは買い物。何が安いか、何を買うべきなのか。全部あの人が教えてくれた。
だから私はあの人が何が好きで何が嫌いで、どんな味付けが好きなのかも知っている。それはきっと、私だから知り得たことなのだろう。
買い物に行くときにはあの人が珍しく連れて行ってくれたショッピングモールで買い与えてくれた洋服に袖を通す。私が目覚めた場所であの人が着せてくれた服はそれは好きだけれど、それとこれとは別だった。
まだあの人の家に住むようになる前、ことあるごとにせがんだけれど、連れて行ってくれたのは半年に一度。おかげでせっかく買ってもらった服は一年も経つとすっかり流行遅れで、道行く学生達に奇異の目で見られることもままある。
それでも私が半年に一度で納得していたのは、一番始めの記憶にあの人がいたから。たぶん、ただそれだけ。

一番始めの記憶には続きがある。
あの人は私に城を燃やすなといった後、台所を指さした。
「なんですか」
「何か作れ。見ていてやるから」
なんて事務的に命令するんだろう、と驚いた。あの人は血の通った人間の筈なのに、私にそんな風に命令してきたからびっくりしただけなのかもしれない。
「わかりました」
そう言って私が台所に入ると、あの人も私の後ろから着いてくる。見ていてやるから、という言葉通り、私が何か作るのを見ているつもりなのだろうと冷蔵庫を開けると、なにやらぎっしりと食材が詰め込まれていた。
「……何を作ればいいですか」
「なんでもいい。……朝を抜かしたから空腹なんだ」
「食事を抜くと太ります」
「知ってる。だから作れ……そうだな、大根の味噌汁と白米でいい」
「はい」
冷蔵庫の野菜室から大根を出してきて、水で洗う。冷たい水の感触が心地よい。
大根をまな板の上に載せて、包丁を当てる。
「あぁ、違う。左手は丸めろ。指を切られたらたまったものじゃない」
「はい」
いわれたとおりに左手を丸めて、短冊に切ってゆく。
そうして火にかけて、味噌を入れてできあがった味噌汁と炊きあがった白米を食べながら、あの人はこう言ったのだった。
「まぁ、次第点だろう」
心底嫌みなやつだと思った。
それが、一番始めの記憶。

二番目、三番目と増えていった記憶はあるけれど、私があの人のことを強く意識したのはこのときが初めてだったような気がする。けれど、強く印象に残っている記憶ほどあの人が深く関わっているのは何故なのだろう。
何故だろう、といつだって自問してきた。その度に答えはでなくて、エラーを起こす頭を必死で宥めていた。
明日ならば分かるだろうかと望みを繋いではずっと叶わずにいた。
だから、明日こそ聞いてみることにしたのだ。

その翌日。
私はいつも通りに起きて服を着替え、朝食を作る。それから、あの人の眠る寝室に向かう。
「朝です。起きてください」
そう言えばその人は布団の中で大きく伸びをして眠い目を擦りながらベッドから降りてくる。
「おはようございます」
「おはよ」
それから寝間着を外出用の服に着替えさせて、顔を洗わせる。
そうして朝食を摂らせて弁当を持たせ、今日は早く帰ってきてくださいとお願いして家を出す。
さぁ、ここからが本番だ。
大急ぎで家事を片付けて、私は数時間後にはデパートの前に立っていた。
もう開店しているはずだ。
だから、足を踏み入れる。
いつもとは比べものにならないくらい人が溢れていて、私はついついそちらへ流されそうになる。それだけは困るので、とりあえずちゃんと地に足をつけて目的のフロアへと向かう。
店員に色々と聞いて欲しいものを買うと、私はいつになく浮き立った気持ちで家へと帰ったのだった。

今日の晩ご飯は大根の味噌汁と白米。そして買ったものを持って、私はあの人が帰ってくるのをずっと待っている。かれこれ数時間は待っているだろうか。早く帰ってきてくださいと言ったとき、あの人は偉そうに、でも優しく微笑んで頷いてくれたのに、味噌汁も白米もすっかり冷めてしまうではないか。
ずっと、ずっとまっているのに。
ふと、今日スーパーで宣伝していた文句を思い出す。
『今日は七夕です、大好きな人に奮発してみたらいかがでしょう』
奮発しても相手がこれではした甲斐も無いというもの。それが少しだけ、少しだけ悲しかった。
私の思考回路はあの人に振り回されっぱなしだ。1人分のご飯を目の前に、じっと固まっている私は、もしかしたらどこか壊れているのかもしれない。
「早く……来てください……」
七夕は牽牛が織女に会いに行く日ではなかったのか。どうせ今頃会って仲むつまじく過ごしているんだから、私にもその幸運を分けてくれたっていいじゃないか。
そうして私は次第にふて腐れ始める。
何で早く帰ってきてくれないんだろう。
そう何度も何度も呟く。
だから、がちゃん、というドアの音に気付けなかった。
「せっかく用意したのに……」
あなたという牽牛はどうして私という織女に会いに来てくれないのですか。
そう呟こうと思ったら、後ろから抱きしめられた。
「悪かった。……遅くなった」
「何かあったんですか」
振り向かずに尋ねると、あの人はもう一度、悪かった、と囁いた。
その声があんまり掠れているから、私はついつい振り向く。そこには疲れ切った顔で髪の毛もぼさぼさになったあの人がいた。
「エラーが出て、その修正でな」
「……そうですか」
「何か作れ。まだ夕飯を食べてないんだ」
その言葉が何故だか嬉しくて。私ははい、と返すとキッチンへ駆けていった。

「次第点」
「またそれですか」
「かわらんからな」
「評価がですか」
「味が」
「……そうですか」
そんなやり取りをしてから、私はデパートで買った包みをあの人に渡した。
「ん?なんだこれ」
「……七夕ですから……それと、聞きたいことがありまして」
「なんだ」
「私の印象に残る記憶ほどあなたが深く関わってくるのです……それはなぜですか」
目の前のあの人はきょとんとしていて、ぼんやりと男の人だなぁ、と思う。それから彼は盛大に溜息を吐いて、こういった。
「……知らなくていい」
その言葉はあまりにも冷たくて、私はでもしないのに涙が流れ落ちる錯覚を覚えて掴みかかった。
「何故ですか!私が居候だからですか?いつまで経っても味噌汁の味が変わらないからですか?……それとも、私が、アンドロイドだからですか……?」
そう、私はアンドロイド。私は機械で、この人はマスター。私は研修期間のアンドロイド。忘れていた。あまりにも自然にこの生活に馴染んでいたから。
私はとんだ思い違いをしていたのだ。
私なんてこの人にとっては掃除機や食器洗い機と同じようなものじゃないか。
所詮、どうしようもないことだったのだ。
「……お前の生みの親は俺で、育ての親も俺だ。最初は研修期間の予定だったんだよ」
「どういうことですか?」
「……百(もも)、お前俺の研究所のアンドロイドの研修期間ってどのくらいか知ってるか?」
「……いいえ」
「だろうな。俺はお前がそれを知らないのを利用した。百の研修期間なんてとっくの昔に終わってるんだよ」
百は私の名前。100を意味する、私の名前。私の研修期間はとっくに終わっている。……では私はどうしてここにいるんだろう。
またエラーを起こしそうになる私の目をはっきりと見つめて、彼は言った。
「百、お前を手放したくない。……俺の勝手な言い分で縛り付けたのに、いつの間にか好かれていたとは思わなかった」
「マスター……」
嬉しくて、嬉しくて、頬に伸ばされた手をぎゅっと握る。
「大好きです……私、マスターが大好きです」
「……ああ」
ぎゅっと握られた手をそのままに、彼は器用に包みを解く。
「……ネクタイか」
「はい……そろそろ新しいのがあってもと思いまして」
「ありがとうな、百」
マスターの頬は赤い。つられて私の頬も温かくなる。
「そういえばネクタイを贈るのは縛り付けたいから、って理由らしいな」
「そうなのですか?」
「らしいぞ。俺はどっちかというと縛り付けたいタイプだけどな」
マスターは目を逸らしてそんなことを言う。だから、私は微笑んだ。
「私、マスターになら縛り付けられてもいいですから」
「……そうか」
そう答えた彼の頬は、やっぱり赤かった。
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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