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猫の取り持つ縁の話

さて、久しぶりにオリジナルのお話です。
サークルの部誌に寄稿したもので、まだ本自体は出来ていないのですがこちらにUPしておきます。
では、どうぞ。

猫の取り持つ縁

猫の取り持つ縁

突然ですが、散歩の途中で出会ったひとに恋をしました。完全に僕の一目惚れです。あんなに美しい人に僕は出会ったことがない。
「……それで?」
目の前に座る女性がアイスコーヒーを啜りながら僕の話の続きを促す。それで?と言われても僕には続ける言葉がなくて聞き返す。
「それで、って?」
「散歩の途中に出会ったひと、なんて沢山いるでしょ?夏樹君はそういう人みんなに一目惚れしちゃうの?」
「え、いや、違う違う、一目惚れしたのは……澪さんだけだよ!」
 そう慌てて弁解すると、澪さんはアイスコーヒーをもう一口啜って溜息を吐く。
「そうでしょ?あ、夏樹君のアイス溶けちゃうよ」
「早くそれを言ってよ!」
僕は慌てて溶けかけたバニラアイスをスプーンで掬った。

 喫茶店を出ると夏の日差しがきらきらと輝いていた。ちょっと散歩しに行っただけのはずなのに、僕はなんで美しい女の人と一緒に歩いているんだろうと思う。ついでに財布を持ってきてよかったとも思う。だってそうでなければ澪さんとお茶なんてできなかったから。我ながら現金だなぁと思うけれど、そうでもしなければ人生やっていける気がしない。だって散歩中に出会った美人さんに声をかけられてお茶をして、その勢いで一目ぼれしちゃったんですなんて言ってしまって、そのついでに彼女に手を引っ張られて歩いているなんて何かのゲームみたいで、話が出来過ぎている気がするのだ。
 そんなこんなで二人で歩いているうちに澪さんがふと立ち止まった。僕もそちらを見れば、彼女はショーウィンドウをきらきらした目で見つめている。
「どうしたの?」
「見て見て、あの猫のストラップ、可愛いと思わない?」
彼女の指を差すほうに目を向けると、確かにショーウィンドウの中、ふわふわのドレスを着た瞳のつぶらな白猫人形の隣に、ドラマか何かで悪役が悪巧みをするときに浮かべるような表情をした三毛猫のそれが飾られていた。正直に言えば可愛いとは思えない。猫のくせに何かを企んだような笑みが僕には気にくわない。だいたい猫はつぶらな瞳が可愛いのにそれを三日月形にゆがめてどうするんだ。
「え、そう?」
「うん、だってほら、あの猫花束持ってるし」
「あ、本当だ」
よく見ると猫の胸の辺りに小さな花束が握られている。ピンク色と黄色の取り合わせは確かに可愛らしいが、あの凶悪な表情を覆すほどの可愛さだとは思えない。が、澪さんの顔は本人曰く可愛いものを見つけた嬉しさできらきらしていて、僕には可愛いと思えない、なんて言えたものではなかった。
「澪さんはこういうの好きなの?」
「ええ、大好きよ。私、可愛いものって大好きなの」
確かに女の子で可愛いものが好き、というのは僕のイメージの中でも確立されてしまったような方程式である。小さいころから同級生の女の子のお誕生日会に選ぶプレゼントは可愛ければみんな喜んでくれたからだ。でもその可愛い、は僕の基準から見ても可愛い、ということであって、その点において僕と相手の女の子の意見が食い違うことはなかったのである。
が、今回においてはまったく別だ。僕がちっとも可愛いと思えないものを澪さんは可愛いという。
「欲しいの?」
「そうね、欲しいか否かで聞かれたらそりゃあ欲しいけど、時間もないからやめておくわ」
「時間?」
「時間。もうすぐ大学の授業が始まっちゃうから行かないと。楽しかったわ、ありがと!」
「あ、うん……」
「そうだ、私、次の授業でおしまいだから暇だったらデートしない?」
「デ、デート?」
 思わず聞き返す僕に澪さんは頷く。
「そう、デート。あ、本当に授業始まっちゃう!じゃ、暇だったら四時半に駅前ね!」
彼女は白いスカートをひらりとひらめかせてぱたぱたと走って行ってしまった。僕はといえば彼女が去っていった方を呆然と眺めていて、何気なく時計を見てからはっと気付く。
「あ、僕も授業もうすぐだ……って、急がなきゃ!」
休講になっちゃえばいいのに、なんて呟きながら僕は澪さんが走っていった方角へと走り出した。

休講になっちゃえばいいのに、なんていう授業に限って休講がないもので、次の授業に僕はギリギリ間に合った。チャイムの余韻を聞きながら一番後ろの席に滑り込み、先生が来るのを待つ。その間、僕の頭の中では澪さんが可愛いと言った猫の人形がにやにや笑いながらつぶらな瞳の白猫人形と二匹でワルツを踊っていた。ピンクと黄色、そして白い花びらが舞い散る中でくるくるくるくると二匹は優雅に弧を描き、先生が来るまで踊り狂う。
その様は僕に「一目惚れをしたのならデートに行くが良い、行って告白でも何でもしてこい!」と言っているようで、若干その悪巧みをした瞳が癪に障るが、この際それは気にしない。
猫の主張ももっともで、デートに行かずに、もしくはデートに行っても告白せずにいたら澪さんは他の男にかっ攫われてしまうだろう。ぼんやりとそれはなんだか嫌だなぁ、と考えた所でふと気付く。そう言えばこの授業が終わるのは四時だった。歩いても走っても駅前には待ち合わせ時間までには余裕で着くだろう。
(好きになったものはなったものでしょうがないし、玉砕覚悟で告白、してみようかなぁ……)
そんなことを考えていると、開始十五分で漸く先生が来た。

そして四時十五分、僕は駅前のショーウィンドウをのぞき込んでいた。澪さんとのぞき込んだ店である。にやりと笑った三毛猫とつぶらな瞳の白猫ははたしてそのショーウィンドウの中に鎮座あそばしていた。店の看板を見ればファンシーショップ、と書かれていたので多少躊躇はしたが、やっぱり覚悟を決めて店の中に踏み込む。
店員のいらっしゃいませ、という声を聞きながらショーウィンドウに座る猫達に向かってゆく。値段を見ると一つ一七七五円。財布がスッカラカンになる値段ではないがなかなかにお高い値段である。二体を手にとってどうしようかなぁ、買おうかなぁ、とまた躊躇していると、店員が声を掛けてくる。
「お客様、ただいまオープンセールと称して二点以上お買いあげで半額となっておりますので、よろしければご利用くださいませ」
「あ、はぁ……」
二点以上お買いあげで半額。二つで三五五〇円が二つで一七七五円。待ち合わせの時間もあることだしと三毛猫と白猫をレジへと持っていく。
もし澪さんに喜んで貰えなかったら二体はずっと僕の手元にあるのだろうが、もし、もしも澪さんが喜んでくれたら三毛猫のほうをあげて、白猫を僕の手元に置いておこうと決めて駅前へと向かう。
「夏樹君、こっちこっち!」
澪さんは駅前の改札口で待っていて、僕を見ると大きく手を振ってくれた。だから僕もそちらへ向かう。
「待った?」
「ううん、早く着きすぎたから買い物してた」
正直にそう言うと澪さんはあら、とにこにこ笑う。そうして僕の腕を掴んで、「どこに行こうか」と尋ねてくる。
「そうだな……じゃあ公園なんてどう?昼間行った所」
「じゃ、そこ行きましょう?あ、その後お昼のカフェでお茶にするのもいいかもしれない。あそこ美味しかったの」
「お腹減ったんならレストランとかのほうがいいんじゃない?」
「いいの。カフェだってレストランみたいなメニューあるじゃない」
「それはまぁそうだけど」
そんなやり取りをしながら公園へと向かう。
「そういえば夏樹君って大学生?」
「うん、大学二年生」
「あら、私も大学二年なの」
偶然ね、と澪さんは笑う。
「どこの大学?」
某大学だと告げると、また彼女は笑う。
「本当に偶然だわ。すごいすごい!私と同じ所!」
「え、あ、だから大学のほうに走っていったんだ」
「そうそう。授業大丈夫だった?」
「うん、ギリギリ大丈夫だった」
「良かったぁ」
そうしてファンシーショップのショーウィンドウを通り過ぎて、澪さんが「あ」と小さな声を上げた。
「どうしたの?」
「三毛猫、売れちゃったのかな?白猫も売れちゃったみたい……」
そう呟く彼女は少し悲しげで、僕まで悲しくなってくる。だから僕は彼女の手を握った。
「あの、ね……澪さんに、プレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「うん……さっき、この店で買ったんだけど……」
澪さんが目を丸くする。
「ここじゃ人が多いから、公園で渡すね」
「……うん!」
再び笑顔になった彼女に僕は鼓動が高鳴るのを感じた。

初夏の公園はまだ明るくて、こんな時間だからかベンチはがらがらに空いていた。二つあるうちのひとつに並んで腰掛けて、僕はファンシーショップの紙袋を膝の上に置いた。人形が入っているビニールの小袋をわしゃわしゃと触って確かめてから三毛猫のほうを出す。
「これ、なんだけど……あの、澪さんが喜んでくれるかな、って」
袋を受け取って、中身を取りだした澪さんが歓声を上げた。
「あ、……あの三毛猫ちゃん!よかったぁ、夏樹君が買っていてくれたんだ!」
「うん。三毛猫のおかげで随分勇気が出たし、ちょっと可愛く見えたから」
「あ、やっぱり?可愛いよね、これ。もしかして白猫ちゃんのほうは……夏樹君が?」
真っ直ぐ見つめられて僕の頬が熱くなる。もう一つのビニール袋から白猫を出して見つめ合う。
「実は……白猫にも助けられて」
「助けられたの?ふふ、夏樹君ってメルヘン趣味なのね」
「メルヘン趣味って訳じゃないんだけどね、ちゃんとやれ、って喝を入れられて」
ついつい照れて頬を掻くと、澪さんが首を傾げる。
「ちゃんとやれ、って?」
いざ本人を目の前にすると、とてもとても照れくさい。けれども一度決心したことなのだから、絶対にやり遂げたい。
だから、一回告げたことだけれどももう一度告げる。
「澪さん」
「うん?」
澪さんが僕を見つめる。
「……好きです。澪さんに一目惚れだったんだ」
「うん、知ってる」
だから、と僕は言葉を続ける。
「だから、付き合ってください」
告げた瞬間、世界中の音がぴたりと止んだ。空を渡る風に木の葉が擦れる音も、近くを走る自動車の音も、僕の頭の中にずっと響くワルツでさえも全てがぴたりと止んで、シンとした空間で二人、見つめ合う。それはもしかしたら数秒の短い時間だったのかもしれない。けれど、今の僕には何時間もの膨大な時間に感じられた。
やがて、彼女が口を開いた。
「ありがとう……ありがとう、夏樹君」
僕の手をきゅ、と握って澪さんはそれはそれは幸せそうに微笑んだ。
「夏樹君と……お付き合いさせてください」
それだけで心が幸せな気持ちでいっぱいになって、僕は澪さんの手を握りかえした。
「ありがとう……澪さん!」
三毛猫と白猫、二匹の猫が頭の中で万歳を繰り返した。それはそれは嬉しそうに。

突然ですが、散歩の途中で出会ったひとに恋をしました。完全に僕の一目惚れです。あんなに美しい人に僕は出会ったことがない。その人は今、僕の隣で笑っている。僕の恋した人は今、僕の恋人で、三毛猫の人形を抱いている。僕たちを結ぶ礎となったのは二匹の猫。
猫の取り持つ縁は、本当にあったのです。
終わり
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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