FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

杉田真由子の探偵日記「魔女の狩人殺人事件」15

事情聴取の続きです。
では、どうぞ。

杉田真由子の探偵日記
「魔女の狩人殺人事件」

未来はサリアと向き合っていた。案外早く出番が来たものだと思う。隣には朱宇と洸が居て、彼女をサポートしてくれる。真由子から渡されたメモを元に事情聴取をするのが彼女たちの役割だった。
「私たちのやり取りは全て録音し、捜査以外の目的で公表することはありません。よろしいでしょうか?」
「……はい」
サリアのツインテールが揺れる。
「えぇと、被害者のダイアナさんが亡くなった時、サリアさんはどちらに?」
「私は使用人の控え室におりました。嘘だとお思いならアニーさんやケリーさんに聞いてみてください」
「……使用人の控え室、ですね。その前後の時間は?」
「その前は……厨房で朝食の準備をしておりました。ケリーさんも一緒です……アニーさんは真由子さんとお話ししていたとかでいませんでしたが」
はきはきと元気の良いしゃべり方をするメイドだ、という印象を受けた。彼女もアニーやケリーと同じように上品な物腰ではあるが、言葉の端々にやや不機嫌そうな声色が滲み出ているところが決定的に違う。
しかしそれでも色々話してくれるのに越したことはない。
「そうですか。……ダイアナさんが恨みを買う、といったようなことは?」
「……あるにはあったのかもしれませんが、私は何も存じません」
「何も知らない、と?」
「ええ」
サリアが頷く。未来はちらりと隣の朱宇を見る。彼もこちらを見返してくる。一瞬視線が絡まって、彼が口を開いた。
「ヴァレンスさんとダイアナさんは婚約されていたんですか?」
「ええ。……とても仲がよろしかったですよ。羨ましいくらいに」
「そうですか……その線では何か?」
「私、何も存じませんわ。私はメイドですから、主人のプライベートな問題に口を挟む権利なんてありませんし、第一興味もございません」
ややきつい口調が返ってくる。この様子では本当に何も知らないようだ。有り難うございました、と言おうとして、洸の言葉に思いとどまる。
「最後に良いですか?」
「……はい」
「あなたはこの事件、やはりヴィオリアの仕業だとお思いで?」

「つまり……あなたはダイアナさんが恨まれる心当たりはあるけれど、殺される心当たりはない……そういうことですか?」
朱奈の質問に、マイラはゆっくりと頷いた。それを確認して彼女はメモ用紙にペンを走らせる。隣には優美と透子。気心知れた心強いメンバーだ。
「そうだね……よしんばヴィオリアが生き返ったとして、彼女がダイアナを殺す動機も見あたらないかな」
「つまり、魔女を信じていた、と?」
優美が問い返すと、彼は首を横に振る。
「いや、信じてはいなかったな。けれど、愚弄するようなこともなかった。……殺されるはずがないとタカをくくっていた、と言う方が正しいかもしれない」
「……」
「彼女はそんなところが良くあったからね。相手が自分を傷つけるはずがない。傷つけられるはずがない。そんな思いこみで、ダイアナは今まで沢山の人を泣かせてきたから」
「それは……そうですか」
酷い思いこみだ。そう言おうとして朱奈は言葉を飲み込んだ。
ダイアナはきっと幸せな人生を送ってきたのだろう。
彼女はきっと自分が人を傷つけたことなんてないと思いこんで生きてきたのだろう。
実際にはそんなことはないのに。
ダイアナの身勝手な行動でいろんな人が傷ついてきた。その仕返しがあってもおかしくないと何故考えなかったのだろう。
ふと、目を瞬いたマイラと視線が絡む。
「皆さんはダイアナが身勝手な人間だったと思っているかもしれないね。……でも、ダイアナも本当は可哀想な女の子なんだよ」
「可哀想?」
透子が鸚鵡返しに尋ねる。
「そう。可哀想。……お母さんがね、結果しか見ない人だったんだ。彼女はいつも、少しでもトップに近い位置にいなくてはならなかった。いや、少し語弊があるかな。……トップにいなくてはならなかったけれど、トップの取り巻きにいることでようやく認めてもらえる学生時代を過ごしたんだ」
「そう、ですか?」
朱奈は何も言わなかったが、透子には思うところがあったらしい。その瞳にほんのりと疑問の色を浮かべて相づちを打つ。
「うん。僕なんかはプロセスを含めてしっかりやっていれば認めてもらえたんだけれど、彼女は違ったんだ。取り巻きにいて嫌みを言われながらもようやくやっていけた。けれどダイアナが嫌み抜きで褒められることはついになかった」
それはそれは漫画か小説のような人生だという印象を抱く。
母親に嫌みばかり言われた反動で身勝手な人間に育ったダイアナ。
彼女は傷ついたことがないわけではなかったようだが、母親以外に自分を傷つけるものはないと思っていたのか。
「その反動だよね。ダイアナもメアリも、気にくわないことがあるとヒステリックに喚き散らす人間に育ってしまった……お父さんは経営術をしっかり教え込んだ反面、教育はあまり関われなかったようだから……可哀想な人だったなと思うよ」
「あの……ダイアナさんのご両親は?」
「今はもう死んでしまったよ。……二人ともいい人だったから、惜しかったと思った」
「……そうですか」
「うん。……僕が話せるのはこれぐらいかな」
がたりと椅子を鳴らしてマイラが立ち上がる。
「ありがとうございました。……また、思い出したことなどありましたら」
「うん……そうだ、君たちは……妖精って信じてる?」
ドアを開けながら彼は問いかける。優美が聞き返す。
「妖精?」
「そう、妖精。庭の草むしりを手伝ってくれたりする妖精」
「……信じていないわけではないんですが、自信を持っている、と断言もできません」
「……そう。じゃ、また何かあったら話すよ」
「え、ちょっと……」
引き留めようとする透子に構わず、マイラは部屋を出て行った。
妖精?
何のことだかさっぱり分からなかった。

「ディーナが殺されるなんて、夢にも思わなかったよ……」
ヴァレンスがうなだれるのを見て、紅音は忌々しげに小さく舌打ちをした。先ほどから彼はずっとこうである。だと言うのに、その声色にはどこか安堵したような、別の不安を抱えているような響きがまとわりつく。
そのちぐはぐな感覚が忌々しくてならないのだ。
「ミスター。お聞きしたいのは、あなたの感想ではなく、あなたのれっきとしたアリバイが聞きたいのです」
ゆっくりと言い聞かせるように尋ねれば、彼はまるでオペラ歌手のように盛大に表情をゆがめた。
「アリバイだって!?あの場にいたみんなが証人だよ。……あぁ、でも、ディーナの食事に毒を盛るぐらいはできる人がいるかもしれない」
「ディーナ、ね……」
おそらくはダイアナ・ローズシープの愛称であろう。婚約していたと話すだけあって相当親しかったようだ。
「……で、あんたのローズシープ邸への到着時刻は?」
「7時50分だよ」
「持ち物は?」
「日本語ガイドブック。日本のことを知りたかったし……あの日本のお嬢さん達の誰かをマイラのパートナーにしてあげたかったんだ」
前半がまともな答えだっただけに、後半を聞き過ごしそうになって慌てて聞きとがめる。
「……は?」
「だから、あのお嬢さん達、みんな可愛いからマイラとお似合いのカップルになると思ったんだ」
しゅん、としょげたように項垂れるヴァレンスを見て、紅音は冷ややかに言い放つ。
「……不純だな」
「何故だい?」
――あぁ、コイツ幾つだよ。
彼女は本気でそう思った。こういうのに限って善意でそう思っているのか、ただの悪意でからかっているのかがわかりにくい。本気で自分のやっていることが間違っていないと信じ込んでいる。
「あいつらにも気持ちってものがあるだろ?ミスター・スターアイ、あんたが本気でそう思っていてもあいつら全員が嫌だって言えばマイラにはパートナーはできない」
「パートナーになってくれた子にはそれなりの報酬を出そうと思ったさ!」
「女がそんなもので釣られるかっ!なぁ、本当にダイアナと婚約者だったのか?何でお前、婚約者が居るのに女心に疎いんだよ!」
「だって……ダイアナは僕が何でも好きなものをあげるよ、って言ったら僕と婚約してくれたんだ」
「……もういい」
呆れかえってしまって話を聞く気にもならない。なんて男だ、と思いつつ、他の持ち物はと尋ねる。
「特に何もないよ。……あぁ、メイドに渡した昼食用のソーダブレッドがあったかな」
「それだけか?」
「あとは携帯電話とハンカチ、財布ぐらいだよ」
「結構。被害者が恨みを買う可能性は?」
そう問えば、彼はこちらをきょとんと見つめたあと、しばし考え込んだ。
「……無いと言えば無いかもしれないけれど、感情の起伏の激しい子だったからね……ヒステリーの的になった人間なら恨んでいてもおかしくないかも知れない」
「ヒステリーの的、って……そんなに酷かったのか?」
「うん。ディーナはこの家では嫌みばかり言われてきたからね。知ってるだろ?人は自分がされてきた行動しかできないって」
「……あぁ、そう言うことか」
嫌みばかり言われてきたダイアナはそれを他人に向けるしかなかったのだろう。
紅音は被害者であるダイアナ・ローズシープの事を知らない。
どんな人間だったのかを知る術はこうして他人に頼るしかないのだ。
けれど、ヴァレンスの話からうかがい知ることのできるダイアナ像に同情することはできなかった。嫌みばかり言われて育ってきたわけではないだろうという感情が胸の内に去来するからだ。
「……ダイアナはどうしてそればっかりだったんだろうな」
「さあ。幸せな感情は残りにくいからじゃないかな?」
「なるほど」
「……僕だって八つ当たりされたことは何度でもあるよ。その時の彼女はまるで……伝説のヴィオリアみたいだった」
「……それで?」
相づちを打ってから白々しいなと思う。それでも彼の声色から安堵と不安が消え去った、その言葉を聞いてやりたいとも思う。
「ヴィオリアは非道い魔女なんだ。若い恋人達をネズミやバラに変えたり、小さな子供を鳩に変えてパイの中に放り込んだり、怪しい薬で村を壊滅させたり……そうだ、雨を降らせて麦が実らないようにしたりもしたんだ!」
「……セオリーだな」
「何かって言うとすぐに怒って、ほっといても構い過ぎてもダメだし、ちょっとでもバカにするとすぐに殺しに来るんだ!ほら、ディーナにそっくりだ!ディーナは魔女だったんだ、彼女をバカにしたら僕も殺される……!」
「……」
その悲愴な金切り声に去来するのは不安ではない。はっきりと明確な形を持った恐怖だった。婚約していた女がちょっと伝説に出てくる魔女に似ているからと言って魔女だ魔女だと騒ぎ立てるのは大人の男としてみっともないと思うが、今更何を恐れているのだろうか。第一彼女はもう殺されてしまったのだ。
「刑事さん、ディーナはヴィオリアを討伐した村人の末裔なんだ……それなのに似ているなんておかしいですよね……」
「……別に、おかしいとは思わないけどな。お前が今どうしてダイアナが殺されてほっとしているのか、不安に思っているのか、そっちのほうが不思議だ」
別に紅音は変なことを言った覚えなど無かった。
「……?」
変なことを言ったわけではないのだが、ヴァレンスは俯いて肩を震わせた。泣いているのではない。くすくすと漏れる笑い声が、単純に面白くて笑っているわけでも嘲笑でもないことを教えてくれる。
「……おい、どうした?」
「ふ……ふふ、あはは、あははははははっ!あなたの洞察力には脱帽だよ!あははははははは!」
「……そいつはどうも」
紳士が大口を開けて笑うな、みっともない。彼女はよほどそう言ってやりたかったのだが、今のヴァレンスには効きそうもなかった。
「確かに僕はディーナが死んで悲しいよ?でもね、僕は安心しちゃったんだ。これでもうディーナのヒステリーに付き合う必要はない!もう僕が傷つかなくても良いんだ!」
「それで、不安なのは?」
ぴたり、と狂ったような笑い声が止まる。目の前の男はオペラ歌手のように大きく上体を反らしながら笑い続けるのをやめて、先ほどとは正反対に真っ青になってかたかたと震え出す。
「不安なんだ、ディーナが殺された。僕の家ももともとヴィオリアの討伐に向かった家だったんだ、ケリーの言うとおり、ヴィオリアが生き返って殺人を繰り返して居るんだとしたら次に殺されるのはきっと僕だ、どういう風に殺されるかが分からないから怖いんだ恐いんだこわいんだ!」
その表情は明確な恐怖。ヴィオリア、という存在がヴェルビオラにとってどういう存在なのかをはっきりと表した表情だった。
「……分かった。何かあったら教えて欲しい」
精神が不安定な様子が紅音の胸中で引っかかる。温度差が激しすぎる。ただ単に婚約者を亡くした反動かと片付けたくもなるが、一応手帳に書き留めておいた。ちょうど事情聴取が終わったらしいサリアと鉢合わせる。
「今終わりましたか?」
「ええ。あの、刑事さん」
「?」
「この事件は、きっとヴィオリアの仕業なんです」
それは確信に近い響きだった。
スポンサーサイト

テーマ : 連載小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

最近の記事
これ以外にも、NOVEL INDEXを随時更新中です。
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
二次創作は「その他創作」からどうぞ。
FC2カウンター
FC2カウンターおんらいん
現在の閲覧者数:
無料カウンター
ブログランキング
FC2 Blog Ranking にほんブログ村にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説にほんブログ村 ホラー・怪奇小説 長編小説 air-rank
サーチ様
検索エンジン Mono Search
ブログ開始から何日経った?
ブログ内検索
リンク
相互リンクサイト様、素材サイト様、管理人別サイトの紹介です。
このブログをリンクに追加する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。