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杉田真由子の探偵日記「魔女の狩人殺人事件」9

お久しぶりです。
というわけで9話目です。
では、どうぞ。

杉田真由子の探偵日記
「魔女の狩人殺人事件」

モーツァルトのピアノが響く。
それを桃色のパジャマからのびた白い腕が遮る。
暫くその発生源である携帯電話を握りしめたまま腕は動かなかったが、ようやく観念したように布団の中に引っ込んだ。
再び携帯電話が出てきたときには黒髪の頭も一緒に出てくる。一度だけ半開きの目がぱちぱちと瞬いた。
「ん……朝、か」
真由子は目を瞬きながらベッドから降りる。
ローズシープ家に隣接するこのゲストハウスは、元々はホテルであるらしい。
それを急な来客ということでただで泊めている……とかいうようなことをダイアナが言っていた気がする。
「この家の良心はメイドだけなんかね……まぁいいけど」
ダイアナはともかく、彼女の妹のメアリの第一印象を思い出す。
泊めてやっているんだから感謝しなさい、と言わんばかりの態度は少々むっとしたが、予想の範囲内といえばそうだ。
そんな事を考えながらパジャマを脱いでワンピースに着替える。
本日は淡いピンクのロングワンピースに白いハイネックのセーター、それに若草色の薄手のカーディガンを合わせる。
下に合わせるタイツは黒のアーガイル柄。
おまけにサイドの髪だけ一つに結んだ大正娘の髪型の結び目に薄いピンクのシュシュをつける。
「ん、これでよし……と。お家のほうでご飯だっけ」
昨夜アメリアに言われたことを思い出しながら階段を下る。
時刻は現在6時。
休みの日の真由子にしては早起きだ。
ただでさえ目覚めのきっかけとなったメールで気分がよいのに、こんなに早く起きられたとあっては浮かれるしかない。
小声で鼻歌を歌いながらふと窓の外を見ると人影が見えた。
どうやら1人。
そして、それは長くウェーブのかかったブロンドの女性だった。
朝6時にローズシープ家の敷地に入ることが出来るブロンドの女性。そんな人物は限られてくる。メイドを覗けば一人しかいない。
アメリア・エイニーである。
だが、なぜこんなところにいるのか。
彼女は確かもっと遅い時間に家から来る、と言っていなかったか?
向こうには聞こえるはずもないのに真由子が息を潜めてみていると、アメリアは前に突っ立っていた茂みに無造作に手を突っ込んだ。
赤やピンクの花が見える様子から、あれはバラの茂みだろう。
「……!?」
思わず小さく悲鳴を上げかけてあわてて口を押さえる。
度肝を抜かれる、とはまたちがう衝撃。
漫画や小説ではよく見る光景。
けれど、遠目にとはいえ実際に見てしまうとその不気味さは倍ほどに膨れ上がることを実感する。

アメリア・エイニーは真っ赤なバラの花びらを食んでいた。

昨日エリシアやマイラたちから聞いた魔女伝説を思い出す。
いや、あれは伝説というより伝承に近いだろうか。
『魔女はバラを咀嚼して吐き出し、それを乙女の生き血と混ぜ合わせた。それから彼女は美少年の血で満たしたバスタヴに身を浸し、その叫びから魔女を愚弄するものの名を聞いた』
人間にバラを咀嚼することは可能だ。だから真由子はその話を聞いたとき身にじわじわとしみいるような不気味さを馬鹿馬鹿しいと心の中で一蹴した。魔女の秘薬?そんな物は御伽噺の産物に決まっている。けれど、真由子は思い出す。
『魔女は自分を愚弄する者たちの唇に秘薬を塗り付けた。
秘薬のうち、あるものは快楽を呼び覚まし、塗られた者は悪魔の手に落ちた。
あるものは塗られた者も知らないうちに死の世界へと自ら旅立った。
あるものはゆっくりと体を蝕み、苦しみの淵でもがきながら死の世界へ旅立った。
あるものは血を吐き苦しみながら死の世界へ旅立った』
背筋が寒くなるような不気味さが真由子の胸を這い回る。その不気味さを首を振って振り払うと、真由子は再び階段を降りた。
ローズシープ本邸と同じく何も飾りのないゲストハウスのシンプルな扉をくぐって外に出ると、アメリアの姿は既になかった。

ローズシープ家本邸に着いてメイド達と朝の挨拶をする。本邸ではちょうど朝食の準備が行われていたらしく、厨房以外を出歩いている使用人はアニーしかいなかった。
「おはようございます、アニーさん」
「おはようございます、真由子さま。ご気分はいかがでしょうか」
「ばっちりです。そういえば、ゲストハウスにバラなんてあったんですね。昨日は暗かったから気付かなかったみたい」
「まぁ」
アニーは割と話しやすい人柄なのだろう。上品さを崩さないところは同じメイドのケリーと似ているが、彼女が生真面目でお堅い印象だとすればアニーはその反対、気さくで話しやすい印象を受ける。
「ところで、皆さん仲がよろしいんですね」
昨日のイヤリング事件やら落書き事件でもめていたことを軽く皮肉ると、彼女はくすくすと笑った。
「皆様、婚約なされた方もいらっしゃいますからね」
自分も主人達を皮肉っているのか、そのままの意味で取っているのかは分からない。だがしかし、昨日の落書き事件については気になることがあったため、突っ込んだことを聞いてみる。
「まぁ、どなたが?」
「ダイアナお嬢様とヴァレンス・スターアイ様、メアリお嬢様とレオナルド・フィレス様が婚約していらっしゃいます。お二組とも仲が本当におよろしいんですよ」
「へぇ……あれ、その容器は?」
アニーが持っているタッパーを指差して訪ねる。
「あぁ、これはジャムです。お化粧品会社のベリーナ社長のお嬢様、エリシア様が届けてくださったんですよ」
「エリシアさん、って……あぁ、あの人ね」
ハニーブラウンの三つ編み美女を思い出す。彼女なら確かに料理が似合いそうだ。
「エリシア様の手作りなので日本で流行りの食品添加物も入っていませんからご安心を」「いやん、そんなに流行ってませんよぉ。確かに入れるのはどうか、ってものもありますけどね。じゃあお味のほうは期待しようかしら」
くすくすとそんなことを話しながら笑っていると、ケリーがこちらに歩いてきた。呆れたような面持ちである。
「おはようございます、ミス・スギタ。アニー、エリシア様のジャムは私が持っていくからそんなところで雑談せずに客間でお話しなさい」
「あ、ごめんなさいケリー。でもいいの?」
「お客様を一人でお待たせするなんてホストの面目が立たないわ。ではもうしばらくお待ちくださいませ」
「ん、時間より早く来ちゃったもんね」
ワンピースの裾を摘まんで腰を落とす。その仕草にケリーが表情を緩めた気がした。
「ふふ、そうしていると社交界のお嬢様みたいですわ」
「いやん照れます。いいとこのメイドさんに言われると自信ついちゃう」
「あ、真由ちゃんおはよう。アニーさんも」
背後から声をかけられて振り向くと朱奈がいた。本日の装いは春物のグレーのジャケットに白いシャツ、オフホワイトのフレアスカートである。
「おはよう朱奈ちゃん。ご飯できるまで客間で待機だって」
「了解。みんなにそう伝えとこうか」
「ん。しかしあれね、超高級、って感じのベッドは久しぶりだったわ」
「あー、何回か協力してたんだっけ」
「まぁね。大したことしてないけど」
言いながら客間へと歩く。
「お二方とも仲がよろしいですね」
アニーが微笑む。
「まぁ、嫌うほど相手を知らないものね」
それはそれで寂しいな、と真由子が微かに思うと、朱奈がとん、と肩に手を置いた。
「そうね。ま、これから知っていけばいいんじゃない?」
「そう……それもそうね」
知らないならこれから知っていけばいい。時間はたっぷりあるのだから。
「そうですわ。サリアも最初ケリーが堅苦しい人だなんて誤解してましたけど、真面目で優しいからこそお仕事をきっちりこなしたい一心で頑張っていると分かりました。私は長い付き合いでしたから、ケリーが不器用なだけだとは思っているのですけれど」
「長い付き合い?」
二人ともまだ20代に見えるが、長い付き合いと言うことはもっと年かさなのだろうか。相手が女性と言うこともあって聞くのがためらわれる。
「あ、私もケリーもこの辺りの出身なんです。元々長期休暇の時期にこのお屋敷で働いていたことが縁でこうして働いているんですよ。まだ二十歳なんです」
「なるほど……」
失礼なことを考えてしまったかもしれない。
「あれ、そういえばこの辺りってロンドンではないですよね?」
鉄道に慣れなくて、何がなにやらよく分からなかった、と言うのが実情である。英語は分かるものの、地名すらよく分かっていない。辛うじて昨日の昼食の店がグリニッジだったことは覚えているが。
「ええ。ロンドンはもっと先。ここはヴェルビオラという場所ですわ」
「あ、そうなんですか……地図には弱いもので」
「真由ちゃん、地理とか苦手なの?」
「ん、まぁ、苦手と言えば、苦手かなぁ……」
「私も地図を読むのはあまり得意ではないですから、大丈夫ですよ」
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テーマ : 連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:4月28日
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:23。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ツイッターと二次創作ブログでいろいろ書いてるのが好きです。
カップリングもいろいろです。二次創作してるのが主な萌え。
色々なネタで呟きます→@kurekito

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