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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

怪奇事件縁側日記「魔女の鏡」13
続きです。
そう言えば「王朝の和歌守展」行ってきました。
授業で習ったやつが少なかったのが意外でしたが、でもまああんなもんじゃないですかね。
では、どうぞ。

怪奇事件縁側日記 春
「魔女の鏡」13

「先輩……知らないでしょうけど、私、先輩のこと、好きだったんです」
彼女は涙を浮かべてうなだれる。目の前には何の変哲もない鏡。泣きはらした眼をした愛らしい少女が映っている。
「なんでいなくなっちゃうんですか?先輩っ……」
『好きな人でもここにいると?鏡の中なら会えるかも知れないわね』
「だ、誰ですか!?」
不審者?彼女の心にひやりとしたものが流れる。
『うふふ……あなた、失踪した男でも好きだったの?』
「やっ……なんで、それっ」
彼女がうろたえると、声はさもおかしくてたまらないと言うように笑い出す。
『顔に出やすいのね。丸わかりだわ』
「別に出したくて出してる訳じゃ……ないです」
顔が紅潮するのを感じる。数日前、部活の先輩にも同じことを言われた。
――顔見てれば分かるよ。でもそっかぁ、……ちゃんに彼氏かぁ……。
あの時の先輩は嬉しそうで、でもどこか何かを懐かしむ眼をしていた。
「みんな顔に出るって言うんだもん」
『ふふふ……お馬鹿な子は好きよ。ああ……でもあなた、とても不毛な恋ね』
自分の恋心を不毛と言われてカチンとこない女の子はいない、と彼女は思っている。第一彼女が好きだった先輩は男だし、恋人だっていなかったはずだ。それなのにどうしてそんなことを言うのか。
『あぁ、これだからお馬鹿な子は好きよ』
声は恍惚としたようにうちふるえた。気味が悪い。彼女は声に悟られないように一歩だけ下がる。
「ば、馬鹿な子、馬鹿な子って、し、失礼だと思います!」
『本当のことでしょう?可哀想ね、あなたの恋は実らない。彼にはすでに心に住まわせた女がいる』
心に住まわせた女。その人は、彼女よりも素敵な人なのかもしれない。あるいは、これは願望だが、それは自分であってほしい。
「それって、先輩に好きな人がいる、ってことですか?」
『好きどころか恋人同士かも知れない。……あぁ、そしてそれは』
どくん、と心臓が跳ねた気がした。ああ、駄目。話に引き込まれては、だめ。それなのに、どうして自分はこんなに話に引き込まれて、どきどきしているんだろう。
そしてそのこえは、含み笑いを漏らして、ゆっくりと言った。
『あなたではない』
密やかな笑い声は、やがて隠しもしない嘲笑に変わる。その声に取り巻かれながら、彼女は悲しいのか落胆したのか分からない。苦しいのか、辛いのか、分からない。
それなのに見知らぬ女の声は、さも彼女の心に渦巻く感情を悟ったかのように笑う。
「何故泣くの?憎いのでしょう?あなたなんかに見向きもしなかった男が、あなたから男を奪った女が、そしてあなたの恋を実らないことを知っていながら煽った女が、憎いでしょう?」
「憎くなんか、ありません!」
それは、紛れもない事実。山岸先輩が振り向いてくれなかったのは、彼女が単に恋するだけだったから。いなくなってしまったのはきっと、山岸先輩の好きなひとのせいではない。それにその人は彼女から彼を奪った訳ではない。そして、あの時遠くを見ていた神城先輩に何の落ち度が、彼女に憎まれる理由があるのか。そんなものは何もない。神城先輩は純粋に喜んでくれただけなのに!
――先輩、先輩!私、どうしたらいいですか?私、迷いそうです。分からないんです。
「そ、それに、あなた、誰なんですか?す、姿も見えないし、ふ、不審者として通報します!」
『あら、今頃気付いたの?でも残念ね。あなたに私から逃れる術はなくってよ!』
「な、何!?」
『あなたもこの鏡のことを知らないのね。この土地の正式な持ち主のことも……おまけに心の底で憎む相手を苦しめることすらできない、それは偽善というものよ。鏡をご覧なさい』
言われたとおりに鏡を見ると、映っていたのは醜く顔を歪めて笑う、彼女の姿。
恋する先輩が自分を見ないのが悔しくて、怒りに顔を歪める自分の姿。
――あぁ、それはなんて醜いのか。
「ち、違う……私じゃ、ない!」
「あれ、要ちゃん?どうしたの?」
自分を呼ぶ声。
邪気のない、少女の声。
大人しい彼女は普段はその人になかなか近寄れないが、この時ばかりは彼女には救いの女神の声に聞こえた。
「麻里紗、先輩……」
女の声が舌打ちする。
『邪魔が入ったわ……うふ、でもこれは好都合かしら?』
「あれ、確かに声が聞こえたんだけど……」
「藤野さん、どうしたの?」
もう一人、少女の声。
「いやね、要ちゃん……後輩の声が聞こえたものだから。室宮さん、見なかった?」
「ううん、私この階に用があったもんだから」
室宮さん、あぁ、思い出した、神城先輩のお友達、が答える。麻里紗先輩でも、室宮先輩でもいい。早く、早くこの鏡から逃げなくては!
『逃げられるとでも思って?逃がさないわ、決して。あなたはワタシとひとつになる』
鏡の向こうにはいつの間にか、見知らぬ女。長い髪に美しい顔。髪についていた、真っ赤な薔薇のコサージュを差し出されたら、もう拒めない!
「助けてっ、先輩っ!!」
「要ちゃん、そこにいるの!?」
「湯浅さん!?」

2人分の足音が聞こえる。

あぁ、でも、もう間に合わない。

鏡に引きずり込まれる最後の瞬間、彼女は誰かの指先に触れた気がした。
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