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天音道中神導 第16話-1
「天音道中神導~魂は音と共に~」の16話目です。
今回の話は事情があって急に予定していたものと取り替えましたが、全体的な流れが変わっているわけではないので大丈夫です。

では、どうぞ。

天音道中神導~魂は音と共に~

第16話 赤の歌姫 1


踊り子アントルシャとエトワールの家を宿にして、次の朝レジェロの町を出てから半日、一行はファルカーナ街へと到着した。
レジェロについたときと同様、食堂で食事を取る。
素直に美味しかった。
「で……この町、お腹が膨れてから見ると、ずいぶん賑やかよね」
アマギが頬杖を付きながら呟く。向かいに座ったクリセルはそれに同意した。
この町は賑やかだ。至る所で音楽が聞こえる。元々音楽をたしなんでいた一行の面々には懐かしくも新鮮であった。
「王都が近いからかしら?」
クリセルの右隣に座ったシュオナもたった今流れ始めた歌に耳を傾けながら話に加わる。
「確かここ、公爵家のお家があったはずよ」
シュオナの右隣に座ったメリルが面白くなさそうに答える。それから隣に座ったマリカの腕に絡みつき、膨れた。
「上手いけど、こんなに大々的に宣伝しなくても良いのに」
「確かにな。上手ければ自然と人は寄ってくるのに」
「体験談か」
「ああ」
向かいに座ったコレットが尋ねると、彼女は頷いた。
「俺なんて宣伝したってこなかったもんな」
「トーシャはそもそも歌なんか歌ってないだろ」
トーシャが神妙に頷きながらしみじみとそう言うと、マリカは冷たく突っ込んだ。
「それはそうと、公爵家があるからってこんなに賑やかになるものなんですか?カルロッタ様」
クリセルがそう聞くと、そうですねぇ、と女神カルロッタは考え込んだ。
「普通はそんなことはないのですが、大々的な催しがあった後だからかもしれませんわね」
「大々的な催し?」
「ええ。公爵家の息子の、花嫁選びですわ」

花嫁選び。

有力者の息子が少なからず通る道であり、その手法は様々である。
嫁に求める条件が何かによって手法も異なる。
条件とはだいたい、美女、料理上手、知性がある、などなど家と息子の意向で決まったりする。
ただし、花嫁選びで得た花嫁が幸せかどうかは分からない、という代物だ。

「また、どうして……花嫁選び?」
「この度フィルファーレ家のご子息、ベリアール・ローレイ・フィルファーレが王宮にお勤めになることになりましたので、そのお祝いに婚礼を済ませてしまおうと」
「……なんだそれ」
「……マリカ、俺前から思っていたんだけどさ」
露骨に顔をしかめるマリカにコレットは真顔で告げる。
「ん?」
「誰かに嫁に貰って貰えば?金銭欲も治まるだろうし、その男言葉も治ると思うぞ」
マリカはぽかんと彼を見ていたが、数瞬ののちふん、と鼻で嘲笑った。
「……何を言い出すかと思えば……それ以前に、お前も誰かに嫁に貰って貰え。そのかわいそうな発想も修正するんじゃないか?」
「いや、俺はそのベリアール・ローレイ・フィルファーレの嫁に立候補すれば……ってそんな男女みたいななりじゃ駄目か」
「金稼ぎのために男装していると何度言ったら……」
そうだ。最近は男装美少女らしく凛々しい活躍が映えたマリカだったが、中性的な美少年を演じて女性から絶大なるお金、いや、支持を得ていたほど、お金が大好きな守銭奴気質が治ったわけではないのだ。
「……踊り子の衣装で男の支持を集めようとは思わないの?」
クリセルの問いに彼女は首を横に振る。
「小さい頃に一回やったら変なのに好かれたから……」
「ねぇ、それ、年齢が原因なんじゃ……」
どんどん変な方向へ逸れていく話に、カルロッタがこほん、と咳払いをする。
「それで、カルロッタ様。その花嫁選びで、どうしてこう賑やかなんですか?」
「それは有力者の娘の争いが熾烈だったからですわ」
「熾烈……って」
「条件は『歌姫』だったのです」
「歌姫……!?」
歌姫。
カリスマ性もさることながら、歌の上手い女性。
そんな歌姫と称される女性が何人もいたのか。
「歌姫は二人。この町を二分するほどの勢力でした。ただ、その催しも少し前に終わったようですが……」
「おわったのね……」
「熾烈な争いでしたわ。二人とも知性も容姿も互角。歌も互角。連日のように二人は歌を歌い、その優劣を競いました」
「それで……どうなったんですか?」
シュオナの恐る恐るといった問いに、カルロッタはしばし考え込んだ。
言っても良いものなのか、迷うといったところだろうか。
しばらくののち、彼女は口を開いた。
「西の歌姫、ヴァリーナ・アリア・ミントヴリーノが勝ちました。それだけです」

あのあと、負けた方はどうなるのか、聞く気にはならなかった。
本日取った宿は花畑の裏にあり、なかなか眺めが良かったが、前に教会があるということが災いしてか、宿泊客は少なかった。
だからだろうか?夢枕に久しぶりに人に立たれたのだ。
『私はただ歌いたかった……それだけ』
その声を聞いてクリセルがベッドから起きあがると、美しい少女がベッドの前で佇んでいた。
淡い金色の、腰まである髪。整った、清楚な美貌。
ブルーの瞳に、白い肌、桃色の形の良い唇。
ブルーのドレスは清楚な雰囲気に合うようなシンプルなもの。
知らない女性だ。
「だ……誰!?」
『私は……ユリーノ・グリス・ロヴェリーヴェルス』
「ユリーノ・グリス・ロヴェリーザ……?」
聞かない名だ。名を繰り返して、やはり知らない名であることを確認する。
すると、彼女は目を閉じた。
『人は、私を東の歌姫と申します』
「東の歌姫……まさか」
負けた方。西の歌姫に負けた歌姫がどうなったのか、クリセルはついぞ聞かなかった。
その歌姫が東の歌姫と呼ばれていてもおかしくはないだろう。
『私はフィルファーレ家の花嫁選びに東の歌姫として立てられ、負けた歌姫です』
「そう……それで、どうしたの」
憂いを帯びたその顔を見ながら、クリセルは聞く。
『その……西の歌姫を……あの狂気から救ってください!』
「西の歌姫?狂気?何でまた」
『もう……西の歌姫は歌姫ではありません』
どういうことなのか。そう問いつめると、西の歌姫は語り始めた。
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