fc2ブログ
創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

怪奇事件縁側日記「魔女の鏡」11
11話目です。
では、どうぞ。
09.11.27 抜けていた部分を加筆しました。申し訳ありませんでした。

怪奇事件縁側日記 春
「魔女の鏡」11


『了解』
唯奈との電話はそこで切れた。優は携帯電話の電源を切ると、再びパソコンに向き直る。
唯奈はドジを踏むことが多い。だがそれは日常生活でのことだ。彼女との付き合いが長いといえば長い優は、唯奈のそそっかしいところが本来の気性に基づくものだと推測している。これでそのドジが演技だったら笑えないが、おそらく気性由来だろう。
だが、ハッカーである白露にはミスは許されない。白露は情報屋ひよどりに得たものを売りつける主な情報元だ。ミスをすれば情報が入ってこない。
いや、それどころか白露自身にも危険が及ぶ。
「無理はしないでほしいけど……大丈夫かな……」
焚き付けたのは自分だ。
もしものとき、唯奈を信じていた、なんて言い訳にならない。キーボードに置いた手が少なからず冷えているのを感じて、優は苦笑した。
――私が唯奈ちゃんにやらせているのに、私が情報を嫌がるってどういうことよ。ほら、ひよどり。しっかりしなさい。
冷えた手を動かしてキーボードを打つ。こちらからも探らなくては。
幸か不幸か、いつもの掲示板には匿名希望の情報屋しかいなかった。
「誰もいない……か?」
ここで話しても望む反応は返ってこないかもしれない。
そう判断すると、優は別の掲示板に飛ぶ。スレッド検索で菊花学園と打ち込むと、いくつかのスレッドが見つかった。そのうち高等部のものをクリックして片っ端から見ていく。いつもお馴染みの情報屋は来ていない。
情報屋は沢山いる。
ひよどりはあの菊花学園のオカルトスレッドには新顔なのだが、他の菊花学園のスレッドでは名の売れた情報屋だ。
同じように、ブルームーンたちのスレッドに来ていないがほかのスレッドにはよくいる情報屋は沢山いる。そのうちの一人が「クリスティー」である。
「……いた、クリスティー」
『突然だけど、誰かブルームーンって知ってる?』
送信して更新すると、同類もいるもので二つほどレスポンスがついていた。
『どこかオカルトのほう行ってみなよ。電波発信してるから』
『オカルトの掲示板にはいつもいるよね。こっちにはあんまり顔出さないけど』
もう一度更新。
「あ……クリスティー!」
『ブルームーンは多分菊花学園の生徒よ。歴史が好きみたいで、彼の書き込みには歴史ものが多く見られるわ』
「歴史もの?」
『七不思議とかかな』
『どうだろう。私はオカルトスレッドには行かないからよく分からないけど、もしかしたらつつけば何か出てくるかも』
『ナズナについては?』
『ナズナ?』
『ブルームーンがよく出す名前なんだけど、何者かよく分からなくて』
『誰だろう』
クリスティーにナズナ、という名前は馴染みのない者らしく、しばらくレスポンスはなかった。代わりに他の名無しが教えてくれる。
『ブルームーンの友達だろ。いつも話が出てる』
『あら、そうなの?あ、ホント。今オカルトスレッドに行ってみたらすごいわね。ブルームーン、その子の話ばかりしてるじゃない。もっとも、ご執心なのは彼だけみたいだけど』
執心かどうかはともかく、クリスティーの話を聞く限りではナズナの正体は相変わらず誰も知らないようだ。もちろんブルームーンの正体も同じ。
電話が鳴る。
唯奈だ。
『私。調べてみたよ』
「ん……どう?」
『無理だわ。私じゃ、無理。せっかくサイトの中まで見たのに、チャットルームも無かった』
悔しさを滲ませて彼女は言う。やっぱり、そう返すと唯奈は諦めきれないようで、唸り声を上げる。
「で、ナズナはいつ頃から知り合いなの?」
『掲示板では去年の9月から。何回かしか掲示板に来ていないわね……でも、裏からの交流は掴めない。メールも無いみたい』
「なるほど……で、それは表から調べた情報よね……こっちも調べたけど、無いわね」
『fluteにカマ掛けてみる?』
「flute……ああ!その手があった!」
fluteは多分ナズナと知り合いのはず。fluteなら何か知っているはずだ。
「出来そう?」
聞くと、彼女はうん、と苦く笑った。
『ひよどりにも協力願わないと無理かも……情報屋は怖いもの。そっちにも仲がいい人、いるんでしょ?』
暗に「クリスティー」のことを言っているのだ。もっとも、その情報は唯奈に筒抜けなわけだが。
「いるわ。じゃ、そういうことで」
健闘を祈る。そう告げて電話を切った。
更新ボタンを押すとクリスティーは大分調べてくれたようで、今回の失踪事件の原因案をアップしてくれていた。
助かる。
『ひよどり、こんなんで大丈夫?』
『うん、ありがとう』
『相変わらずブルームーンとかナズナのことは分からないけど……』
『いいの。あとは私も調べるわ』
分からないことだらけの現状に嘆息しながらそう打ち込んだ。

4月10日
昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り、室内楽部に見学に来た湯浅要の顔は悲しそうな顔だった、と急遽設けられた部活説明会から帰ってきた明日華は話した。
入学式が失踪事件の話題で持ちきりになり、せっかくのお祝い気分が吹き飛んでしまったのだそうだ。
仕方がないと言えばそうだが、教科書も変わらない、放課後の部活も停止とあってはしょんぼりするのも気持ちが分かる。
「要ちゃんてさ、私の後輩なんだけどすごく可愛い子でね。表情がくるくる変わるのが面白いんだけど、やっぱりシュンとしてたわ」
見学も慌ただしくなるものね、と唯奈が頷く。
昼休みに部活説明会が設けられたのは、始業式からの放課後の部活動が停止され、新入生の部活見学が出来なくなったためである。
新入生を欠いた状態では部活動など出来るはずもない。
なので、各部の部長が連合して学校側と生徒会に掛け合い、昼休みの新入生部活説明会が開催される運びと相成ったわけである。
「ねえ明日華。要ちゃんは失踪事件、失踪したのが山岸先輩だって知ってるの?」
涼香がふと気になって聞くと、明日華はううん、と考え込んだ。
「知らないんじゃ、ないかなぁ?少なくとも要ちゃんは部活がないのに落ち込んでたみたいだし」
「そう」
それが良いことなのか悪いことなのか涼香には判断できない。
明日華から伝え聞く限りでは湯浅要は山岸哲哉が好きなのだ。
彼の人好きのする、優しい人物像からでも要が彼のどこに惹かれたのか容易に分かるが、彼女は今でも彼に片思いをしているのだろうか?
「でも、要ちゃんは一途な子だから……悲しむなぁ、きっと」
「そう……伝えづらいわね」
「伝えるつもりなの?」
唯奈が心配そうな顔で聞く。明日華は苦く笑って頷いた。
「いつかは分かることだもん……でも、出来ることなら伝えたくないけど」
「そっか……知ってるから伝えづらいよね」
優がため息をつく。不意に涼香の後ろでガタンと騒々しい音が鳴った。
抹宵媛乃だ。
今日はなにやら不機嫌なようで、イライラ、カリカリとした雰囲気を醸し出している。
昔の涼香以上に人と話すことをしないから、言葉による攻撃で反感を買うことはないようだが、出来れば近寄りたくない。
始業式の日に盛大に抹宵媛乃の噂話をしてくれた藤野麻理紗のほうを見ると、大胆なところもあり快活な気質の彼女にしてはやけに遠慮がちに媛乃のほうを見ており、ぱちりと目が合うとかすかに苦笑した。
「麻理紗ちゃんも要ちゃんのこと気にしててさ……そう言えば同じ部活だったんだよね」
パートが違うし打ち上げも来ないから忘れてた、と明日華は笑った。
忘れてた、と言うよりも去年1年は距離の取り方を考えあぐねていてウマが合わないと思いこんでいただけだろう。
それが証拠に、同じクラスになってからは彼女と麻理紗はとても仲が良い。同じ室内楽部員で、このクラスでは二人だけだからだろうか。
「藤野さんは楽器、何やってるの?」
「えっと、ヴィオラ。昼休みに音出ししてるの聞いたんだけどね、すごく上手い」
「へぇ……もしかしてこのクラス、音楽やってる子が多いのかもしれないわね」
涼香がそう言うと、唯奈が指を折って数え始める。
「涼香に明日華に藤野さんに、朝倉さんに、来栖さんに……」
「月河さん、秦野さん、宮富君、剛野君、井上君……ホントだ、いっぱいいるわね」
優が続けて数えて、へぇ、と感心した。
本鈴がなって、世界史の教師が入ってきたので、この話は一時中断となる。
だが、涼香は考えていた。
もしかしたら初日に主に悪い方の噂話をされていたのを前の席の女生徒は知っていたのかもしれない。それでよけいに話をしないのではないか。
それを感じ取って、藤野麻理紗は腫れ物に触るような態度を取っている?
10分ほど考えて、結論が出なかったので、考えるのをやめた。

「あ、あの……明日華先輩」
放課後、帰ろうとした涼香と明日華の背に、か細い声がかけられた。
振り向くと菊花学園の冬服である白いブレザーを着た女子が立っている。
小動物的な可愛らしさのある少女で、真新しいブレザーに着られているところをみるとおそらく新入生だろう。
目の前で不安そうな顔をする少女を、2人は確かに知っていた。
「要ちゃん……」

湯浅要だった。

涼香は何回か明日華の部活で見たことがあるが、要がこちらを知っているかまでは保証ができなかった。察したのか、明日華が涼香を紹介してくれる。
「明日華先輩のお友達ですよね。何回かお会いしてます」
「あ、なんだ。そっか」
「はい……あの……先輩、失踪した人、山岸先輩って、本当ですか?」
スポンサーサイト




Comment

 秘密にする

Track Back
TB*URL

Copyright © 胡蝶苑. all rights reserved.