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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

怪奇事件縁側日記「魔女の鏡」9
8の続きです。
もう11月ですね……。多分もう少しでこれ終わるんで、そしたら夏のお話。
……季節感皆無!
では、どうぞ。

怪奇事件縁側日記 春
「魔女の鏡」

『山岸哲弥、当時2年D組、今年度は3年D組。
2009年3月31日に失踪?当日の朝は目立った行動などはなく、いつも通りに家を出た』
山岸哲弥の情報だ。
3月の終わりの失踪。
事件に巻き込まれた?
『何時かは分からないが夕方頃、山岸が鞄を取りに行くのを同じ野球部でクラスメイトの蓮城圭が確認』
『蓮城?誰?』
『D組のやつだよ。面白いやつだよ』
『彼女募集中の人?』
『そうそう、あいつだよ。何でもやってるサイトの常連さんと仲が良いらしいんだけど、そこまでいってないとかって』
『さっさとナンパすればいいのにな』
「ブルームーンに……似てるわね」
涼香は彼らの言動に既視感(デジャ・ヴュ)を覚えて首をかしげる。
それを明日華は不思議そうに見つめる。
「何よ?」
「ブルームーンのこと、そんなに気になる?」
「べ、別に気にならないけど?」
そう?と意地悪そうに聞く幼なじみに、そうよ、と返す。
すると彼女はにやりと笑った。
「でも、ブルームーン、言ってるんじゃない?オフラインでも……この間なんか掲示板で友達のアドヴァイスでメールアドレス聞きたいんだけどなかなか防御が固くて~……って言ってたわよ。オフラインで言っている証拠じゃない」
「なっ……」
「それに、音楽系の部活に入っている、とか、結構知ってるみたいよ?たまに聞くし」
「……っ!ひっ、人ごとだと思って!人ごとだけど!」
恥ずかしい。
とても恥ずかしい。
何が恥ずかしいかというと、ここまで自分の情報が出ていることだ。ブルームーンはインターネットの世界を離れてもあること無いことしゃべくり回っているのだ。今度のメッセンジャーでは自重という言葉をたたき込んでやる、そう涼香は心に誓った。
「で、本当のところはどうなのよ?何もないんでしょ?」
「無いわよ」
――もう嫌だ、この掲示板。
そう思ってはみたものの、面白い書き込みがある以上、さっさとブラウザを閉じてしまうわけにはいかない。
――もう、馬鹿っ、あの蒼薔薇めっ!
心の中で悪態を付きながら書き込みを睨み付ける。
『その翌日、練習はなく、遊んだときは友人の家に一泊する事もあった山岸の家族は午前中には友人と遊んでいるのだと思って待っていたが、夜中になっても帰ってこない。もう一泊して友達の家から部活に行くのだろうと思い、携帯電話に電話をしたが反応はなかった』
「電話に、出ない!?」
「まさか、学校から出ていないとか?」
校舎から出ないままの失踪。あり得るものか?通常ではあり得ない。
だがもし、校舎内に不審者が紛れ込んでいて山岸をどこかへ連れ去ったとしたら……。
背筋に寒いものが走る。
「学校から出ていないとしたら、どこにいるって言うのよ……」
「で、でもっ、不審者に校舎内で連れ去られたって可能性も……」
「明日華……」
「ね、涼香……先輩、まさか殺されてないよね……?」
明日華の縋るような眼差し。それは彼女の過去に由来するものだとは知っているが、涼香には答えることができなかった。
校舎内で失踪したならば、不審者に連れ去られたか上履きのままで部活着のまま出て行ったことになる。そして、校舎から出たのならば生死は不明だが、校舎にまだいるとすれば、監禁されていればあるいは、さもなければ、となる。最悪の想像はしたくない。
セキュリティは完璧なはずだが、菊花学園高等部の校門はよじ登ろうと思えば登ってしまえる高さだ。どうにも安心させる言葉など、浮かびはしない。
『電話もメールも返ってこないことに不安を覚えた家族は事件の翌々日、4月2日に野球部顧問に連絡、失踪が判明した』
「どういう事……?電話もメールも出なくて、失踪……」
『なお荷物整理の際、山岸の鞄は見あたらなかったが、ちょうど夕方に教室にいたクラスメイト桜野綾によれば誰も教室には来ていないとのこと』
「誰も、来ていない?」
鞄が見あたらなくて誰も来ていないとはどういう事なのか。
『なお、夕方頃に二年の下駄箱に本校の制服ではない女子高生らしき人影を数名が確認』
「女子高生?」
「らしきって……何?」
分からないことだらけだ。
涼香も明日華も、基本的には超常現象なんてあり得ないと思っている。
テレビでやっていることはどうか知らないが、自分たちの身の回りでそんなことがあることは無いと思っている。
下駄箱の女子高生らしき人影。
運び手なしに無くなった荷物。
校舎内での失踪。
「なに、これ……」
仄暗い薄気味悪さが二人の間を支配した。
「り……涼香……」
明日華がかたかたと震えているのに気づき、涼香はその身体を引き寄せる。
明日華は怪談話が苦手なのだ。怖いのもあるだろうが、もっと他の理由もある。彼女が失ったものをもう一度失わされるような心地がするのかもしれない。あるいは、夢で再現されてしまうからかもしれない。
繊細なのか図太いのかは普段はよく分からないし、こういうときも分かるわけはないのだが、彼女が恐れるものは一番よく分かっているつもりだ。
「いったん閉じましょ。そろそろ家事もやらなきゃいけないし、手伝って貰うわよ」
だから涼香は空気を変えるために椅子から立った。
「お昼ごはん、なにがいい?」
「簡単なものでいいわ。涼香、私いつものところに行ってる」

「七不思議……か」
涼香はパスタを茹でながらそうぼやいた。面白いかどうかは置いておいて、どうしてその結論になるのかが分からない。ただ、人為的にやった、となると説明が付かないのも事実。そのあたりをブルームーンは知ってやっているのだろうか。
無責任に煽っているだけだとしたらそれはただの愉快犯だし、真剣に考えているのだとしたらただの電波君だ。
『鏡に触れてはいけない』
この台詞をどういう意図で書いているのかは知らない。けれど、彼が何か鍵を握っていて、鍵に近づいたものに警告を発しているとしたら?
いや、それをどうして彼は知っている?そしてどうして山岸哲弥は知らなかった?
その答えは簡単だ。
「山岸哲弥は『ブルームーン』を知らなかったから……いや、オフラインで情報をだだ漏れにしているから、七不思議ぐらい……」
『相変わらず電波だな』
そう言われるのがブルームーンとて平気なはずはない。平気なのかもしれないが、良い気分はしないだろう。
「ああもう!訳わかんない!」
ぐりん、と菜箸でかき混ぜた鍋の中で、パスタがくりんと一周した。
――あとで絶対問いつめてやる!

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