なんか時機を逸したかも。
というわけで、GWに書いていたものを。
ちょっとやっぱ更新が……無理です。
今回も?完全オリジナル。
ちょっと寂しいお話です。
では、どうぞ。
というわけで、GWに書いていたものを。
ちょっとやっぱ更新が……無理です。
今回も?完全オリジナル。
ちょっと寂しいお話です。
では、どうぞ。
いつからか、葉桜の季節になっていた。
彼女は目を閉じてそれを感じる。
さらさらという風の音、葉のこすれる音、音、音、音。
あらゆる音が耳の中でこだまして、彼女の思いを導く。
五月はまだ始まったばかりだというのに、空はどんよりと暗い。綺麗な青空がみたいと思いながら、彼女は鞄を持ち直した。鞄の中には筆記用具とスケッチブック。別に画家になるわけではないが、絵が好きだからたまの休みにこうして絵を描いているのだ。
ゴールデンウィークが始まったばかりの電車は、平日とはまた違った風情がある。
つまり、混んでいない。
ゆっくりのんびりと各駅停車で目的地へ行く。目当ての景色はなくてもいい。なければないで、適当に何かを描いて帰るから。
目的地は、数ヶ月前は緑あふれる小高い丘だった。それなのに、何故か今は土色。
何が起こったかは容易に想像がついた。
大きなクレーン。土を積んだトラック。
ここは、開発されてしまうのだ。
今日は、たまたま工事が休みだった、と言う理由で誰もいないだけで、ゴールデンウィークが終わってしまえばすぐに工事が再開するのだろう。
別に悲しいとか、そういうわけではない。
環境破壊に反対を叫ぶわけでもない。
けれど、何処か胸の奥が、寂しかった。
不意に、彼女の足下に小さなボールが転がった。
「すみませ~ん」
駆け寄ってくる小さな足音。彼女はボールを拾い上げると、掛けてきた少年に渡す。彼はにこりと笑って、ありがとう、と言った。
「気をつけてね」
かけてゆく足音の向こうで、父親らしき男性が軽く会釈をした。
そのまま、そのまま、二人が消えてゆく。
キャッチボールをする音と、今度はそらすなよ、という父親の声をかすかに残して。
とん、と腰に柔らかい衝撃。
「きゃっ、ごめんなさい!」
振り向くと、ランドセルを背負った、三つ編みの少女。少女は顔を真っ赤にしてぺこんと頭を下げた。
「大丈夫よ」
にっこり彼女が笑ってみせれば、嬉しそうな顔で、ありがとうと言われた。
「ここが通学路なの?」
「はい。家はもう少し先なんですが、少しだけ、ここに来たくって」
そして、彼女は次に、少女の言葉に耳を疑った。
「ここ、好きなんです。綺麗な緑がゆれてて、とっても素敵ですよね」
「え……」
見渡して、緑色があふれていることに気がついた。
その景色が、好きだった。
あらゆる苦悩と悲しみを洗い流してくれる緑色の小高い丘が、彼女は好きだった。
「ええ……私も、私も大好きよ」
すると少女はにこりと笑って、またかけていった。
とたとたとた……。
小さな足音たちが、緑の景色の向こうに消えてゆく。
そしてまた、緑の景色も土色の彼方に消え去ったのだ。
思い出を、人という不確かなカメラの中に遺して。
いつしか空は、雨を降らせていた。
プラットフォームで電車を数本やり過ごし、彼女はスケッチブックを開いていた。
あの緑の中で描いた絵が、そこにある。
山の絵や空の絵、鳥の絵や木々の絵が描いてあっても、緑の景色はそこにはなかった。
その新しいページに、少年と父親、そして青々とした草を描く。
父親の放ったボールは、軌道をそれて、そのまま。
次のページには、ランドセルを背負った少女を。
さわさわ揺れる草原に、三つ編みをなびかせながら大好きだと言った少女は、草原から駆けていって、二度と戻ってくることはない。
なぜなら、もう、緑の丘はないのだから。
プラットフォームにゆれる葉桜の音が、その思いを代弁するかのように雨粒とこすれて寂しい音を立てていた。
彼女は目を閉じてそれを感じる。
さらさらという風の音、葉のこすれる音、音、音、音。
あらゆる音が耳の中でこだまして、彼女の思いを導く。
五月はまだ始まったばかりだというのに、空はどんよりと暗い。綺麗な青空がみたいと思いながら、彼女は鞄を持ち直した。鞄の中には筆記用具とスケッチブック。別に画家になるわけではないが、絵が好きだからたまの休みにこうして絵を描いているのだ。
ゴールデンウィークが始まったばかりの電車は、平日とはまた違った風情がある。
つまり、混んでいない。
ゆっくりのんびりと各駅停車で目的地へ行く。目当ての景色はなくてもいい。なければないで、適当に何かを描いて帰るから。
目的地は、数ヶ月前は緑あふれる小高い丘だった。それなのに、何故か今は土色。
何が起こったかは容易に想像がついた。
大きなクレーン。土を積んだトラック。
ここは、開発されてしまうのだ。
今日は、たまたま工事が休みだった、と言う理由で誰もいないだけで、ゴールデンウィークが終わってしまえばすぐに工事が再開するのだろう。
別に悲しいとか、そういうわけではない。
環境破壊に反対を叫ぶわけでもない。
けれど、何処か胸の奥が、寂しかった。
不意に、彼女の足下に小さなボールが転がった。
「すみませ~ん」
駆け寄ってくる小さな足音。彼女はボールを拾い上げると、掛けてきた少年に渡す。彼はにこりと笑って、ありがとう、と言った。
「気をつけてね」
かけてゆく足音の向こうで、父親らしき男性が軽く会釈をした。
そのまま、そのまま、二人が消えてゆく。
キャッチボールをする音と、今度はそらすなよ、という父親の声をかすかに残して。
とん、と腰に柔らかい衝撃。
「きゃっ、ごめんなさい!」
振り向くと、ランドセルを背負った、三つ編みの少女。少女は顔を真っ赤にしてぺこんと頭を下げた。
「大丈夫よ」
にっこり彼女が笑ってみせれば、嬉しそうな顔で、ありがとうと言われた。
「ここが通学路なの?」
「はい。家はもう少し先なんですが、少しだけ、ここに来たくって」
そして、彼女は次に、少女の言葉に耳を疑った。
「ここ、好きなんです。綺麗な緑がゆれてて、とっても素敵ですよね」
「え……」
見渡して、緑色があふれていることに気がついた。
その景色が、好きだった。
あらゆる苦悩と悲しみを洗い流してくれる緑色の小高い丘が、彼女は好きだった。
「ええ……私も、私も大好きよ」
すると少女はにこりと笑って、またかけていった。
とたとたとた……。
小さな足音たちが、緑の景色の向こうに消えてゆく。
そしてまた、緑の景色も土色の彼方に消え去ったのだ。
思い出を、人という不確かなカメラの中に遺して。
いつしか空は、雨を降らせていた。
プラットフォームで電車を数本やり過ごし、彼女はスケッチブックを開いていた。
あの緑の中で描いた絵が、そこにある。
山の絵や空の絵、鳥の絵や木々の絵が描いてあっても、緑の景色はそこにはなかった。
その新しいページに、少年と父親、そして青々とした草を描く。
父親の放ったボールは、軌道をそれて、そのまま。
次のページには、ランドセルを背負った少女を。
さわさわ揺れる草原に、三つ編みをなびかせながら大好きだと言った少女は、草原から駆けていって、二度と戻ってくることはない。
なぜなら、もう、緑の丘はないのだから。
プラットフォームにゆれる葉桜の音が、その思いを代弁するかのように雨粒とこすれて寂しい音を立てていた。
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Comment

<世浪さま
ご高覧ありがとうございます。私自身は実家を立て替える際に半年ほど近所に引っ越したことがありまして、戻ってきたときには家以外何も変わってはいなかったのですが、ここ数年でどんどん変わっていくのを見て思いつきました。
数代前に今の土地に移ってきたときと今ではまるで違う景色で、私の幼い頃と今ではやっぱり景色が違う、やはり世代を超えたりして景色は変わっていってしまうようですね。
ご高覧ありがとうございます。私自身は実家を立て替える際に半年ほど近所に引っ越したことがありまして、戻ってきたときには家以外何も変わってはいなかったのですが、ここ数年でどんどん変わっていくのを見て思いつきました。
数代前に今の土地に移ってきたときと今ではまるで違う景色で、私の幼い頃と今ではやっぱり景色が違う、やはり世代を超えたりして景色は変わっていってしまうようですね。
紅崎姫都香 | URL | 2008/06/06/Fri 11:23[EDIT]

風景が変わっていく時に感じる、心の奥をつままれる感じがしますね。自分は、引っ越す事も無く同じ土地でずっと暮らしてます。山もどんどん、切り開かれていくし、自分よりも年の幼いコには緑があるように見えるのかも、と思うと、もっといい景色があったんだけどな、と思います。親も似たような事をよく話してくれるので、世代によって変わっていくんだなと感じます。
世浪 | URL | 2008/05/26/Mon 21:23[EDIT]
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