春、桜の花の下で
ホラーはものすごく苦手です。
ですが、近所にすごく綺麗な桜が咲いているので、ネタに書いてみました。
そういえば、最近「ドラゴンキーパー」という携帯ゲームにはまっています。とてもおもしろい。SSを書く要素がたくさんあると思うのですが、見つかりません。時間が出来たら書くかもです。
まぁ、これはホラーですが、多分ぬるいかと思われます。でもこれ以上ぬるいの書けませんので、あしからず。
では、どうぞ。
書き忘れていましたが、この作品は全くもってフィクションです。作中の土地には全く関係ありませんのであしからず。
「春、桜の花の下で」
桜が、咲いた。
近所の小学校に桜の木がある。
昔の日本固有の桜ではなく、数十年前に品種改良されたソメイヨシノと八重桜のベタな組み合わせだ。小学校と中学校に通っていた頃はいつもの光景だったのだけれど、高校になってからはあまり見ない光景に、まして浪人することになってしまってからは全く見ない光景になってしまった。
「桜の木の下には死体が埋まっている」
そんな話を聞いたことがある。死体の血を吸って育つから、花びらが紅いのだと。それを聞いたときは結構小さかったと思うのだけれど、怖くて眠れなかった。
今はどうかと聞かれたら、笑ってごまかすしかないのだけれど、よくよく考えたら無理かなとも思う。
確かに人間は毎日何処かで必ず生まれ、その命を終えてゆくけれど、よりにもよって小さな子供が通ってくる学校の端っこに、しかも数十センチおきに埋めることはやっぱり気が引けるのではないか。
そう予備校で知り合った秋谷君という男の子に言ったら、彼は失礼にも笑い飛ばしてくれた。
「だって、どっかのマンガにもあっただろ?そういう話。春風さんの小学校、そんなに新しいの?」
「新しくはないわよ。どっちかっていうと、古いほう」
小学校は私が2年生の時、100周年を迎えた。
だから今、111周年を迎える頃、ぞろ目の時期だ。要するに、1世紀は経っているってことである。だけど、今から111年前っていったら1897年、日清戦争が終わってちょっとした頃だ。
いくら何でも、そこまで平民の人権を蹂躙する権利は、建設業の偉い人だってないのではないか?
「いいや、それはどうかな」
彼はめがねをきゅっと押し上げて、嫌味に笑った。普段が大人しくて地味でイイヤツなだけに、こういう時にはギャップが激しすぎて呆れてしまう。
そう、彼はこのテの話(要するに都市伝説とか歴史が絡むような話)には異常に詳しくて、絶対に出身校ではオカルトマニアとか歴史オタクとか言われていたに違いない。
「人身御供って知ってるだろ?」
「ああ、橋を架けるときとか建物を造るときに沈める人間のこと?」
「そうそう。アレだって、人権を蹂躙しているようなもんだ。だってその人が生きる権利を村人全員で奪っているんだからね。それと同じようなことが、あの時代に起こっていても不思議じゃない。何せ文明開化が進んでいる割には農民はまだ江戸時代と同じような目に遭っていたわけだし、差別なんかも撤廃されたわけじゃなかった……」
「ああ、もういいからいいから」
放っておくと昼休みが終わってしまう。私も秋谷君も席は取ってあるからいいとして、注文したクラブハウスサンドとサラダが食べ終わらないともったいない。
私はともかく、彼はまだサラダに手をつけていないのだから。
「聞きたくない?この間本で読んだんだけれど」
「いや、聞きたいけど授業始まっちゃうって」
「そうか……残念!」
いいから食べろ、と言いたい。
本当に彼は何で日本史を取らずに政治経済を取っているんだと思う。というか、日本史を取っていれば、今頃彼は大学生だったのではないか。いや、今年浪人の私に言えたことではないのだけれど。
授業が全て終わったあと、私たちは本屋に寄っていくことにした。
何故複数形かというと、途中まで電車が同じだからだ。
小田急線の新宿駅から急行で、登戸まで。急行より速い快速急行があるのだが、これがうまくなくて、新宿を出たあとに代々木上原、下北沢から新百合ヶ丘まで行ってしまうので間にある登戸に止まらない。
私はそのあと新百合ヶ丘まで行って、唐木田行きの電車に乗り換える。秋谷君は南武線で立川まで行くんだったと思うが、よく覚えていない。
で、なぜ寄っていくのかというと、これは一種の習性みたいなもので、私も彼も本が好きだからである。確か今日は誰それの新刊の発売日だった、と受験生の癖して好きな作家の新刊は覚えているのである。まあ、これがいわゆる「読書中毒」というやつだろう。
お目当ての本は、確かにあった。
だが、その横。平台に積まれた本の山の中に、見つけてしまった。黒地に赤文字、桜の花が舞っている表紙を。
タイトルは「春、桜の花の下で」。ミステリーなのか、ホラーなのか一瞬判別が着かなかったが、帯に書かれた言葉でわかってしまった。後者だ。
ふらふら手が伸びて、その本を手に取った。怖いはずなのに。引き寄せられるように。
「春風さん、その本、買うの?」
「あ、うん……」
「ホラーじゃん」
「ちょ、ちょっとね……」
秋谷君はふうん、と言うと私をレジに促した。
帰り道、私たちはやっぱりその話で盛り上がった。昼休みの、桜の話である。
「そういえば、僕の家の近くにやっぱり桜の木があるんだけどね」
うん、と返すと秋谷君はにやりと笑った。
「怪談があるんだよ」
「な、にそれ……」
「昔、庄屋の娘だかがいて、その娘がたいそう美しかった。まあどれだけ美しかったかは知らないけど、不思議なもので男どもが言い寄らない。で、ある日父親が娘に縁談を持っていこうとすると娘の部屋から笑い声が聞こえる……」
父親が覗いてみると娘の側にはたいそう美しい身分の高そうな男がいたのだが、いきなり戸を開けると娘一人しか部屋の中にはいない。娘を問いつめてもそんな男は知らないと言う。
だが、数ヶ月後、娘は月の障りが止まったことに気付く。そのころには、娘は父親の持ってきた縁談を受け入れ、隣村の名主の息子のところに嫁ぐことになっていた。父親は娘が美しい男のことを隠しているのだと思い、娘にその男と別れるようきつく言うが、彼女は泣いてばかりいる。
そうこうするうちに7日が経ち、急に娘の腹が大きくなる。そのことを知った名主から縁談を破棄される。庄屋親子が悲しみにくれる中、娘は無事に子供を出産するが、その子供が初七日も済まないうちに神隠しにあってしまう。
それから三日後、その美しい男が武家の息子として娘の前に現れ、子供はその奥方の腕に抱かれていた。錯乱した娘は包丁を持って奥方に斬りかかり、武家の息子に斬られてしまう。まだ息のあった娘は恨みの言葉を残して自害する。
その後、後を追うように庄屋一家もこの世を去り、哀れんだ村人が庄屋の家族の分だけ寺に遺体を埋めたすぐ側に桜を植えた。
が、それから一ヶ月たち、あり得ない早さで娘の桜は大樹となった。武家の息子はそれを聞き、奥方に話したところ、気味悪がるので切り倒させることにした。だが、切り倒そうとすると冬でもないのに雪が降ったり、夏でもないのに雷が鳴る。怪しんで息子が直々に行くと丁度娘を斬り殺したあたりであの時と同じ恨みの言葉が聞こえる。ますます怪しんで桜の木の場所まで行くと、他の桜はまだ低いのに、その桜だけ何百年と経たように花をつけている。じっと見つめていると、娘の姿が花吹雪と共に浮かび上がり、恨めしげに涙を流すではないか。
「そなたは何者だ」
と息子が聞くと、彼女は覚えておられませんのね、と言う。
「わたくしから子供を取り上げておいて、いくら桜の精のお姿を借りあそばされたとしても当の貴方様が忘れておいでとは……」
それを聞いて息子は思い出した。彼は以前、奉公にでていた庄屋の娘に手をつけたことがあった。それから、少しだけその娘をみたくて、庭にあった桜に願い出たところ、夢で彼女のところへ忍んでいたのだ。息子の立場では非常に後ろ暗い話である。
「……それで息子はしらばっくれて、『子供は捨て子で、桜の精が妻に託したのだ。だからお前など知らぬ』と言うと、娘は美しい顔を般若に変えて息子と奥方を呪い殺してしまった。それ以来、怒りを鎮めるために赤ちゃん関連のものをお供えしてるんだ」
「へぇ……」
「でも、春になってラブラブバカップルがその桜……『霞桜』に来ると、強制的に別れさせられるか、子供が神隠しに会うんだそうだ」
ラブラブバカップル、をやけに強調した長い話を聞き終えて、私は身震いをした。桜にそんな話があるとは。秋谷君はにやりと笑った顔のまま、「来年、合格したら行こうか」などと言う。
「いや、それは……」
「カップルじゃないし、いいんじゃないか?」
「いや、あの」
そういったとき、登戸に着いた。
文庫本「春、桜の花の下で」はやっぱりホラーだった。しかも、秋谷君の話とほとんど似た話を題材として。ただ違うのは、子供が神隠しにあうのではなく、男の方が死んでしまう、というもの。どちらにしたってホラーが苦手な人が夜に読めない代物だった。最寄り駅を降りて家まで久しぶりに歩くことにした。
道中考える。
一週間でお腹が張るというのはどうなんだろう。全く持って非科学的な話だ。
だが、どうして武家の息子はしらばっくれたんだろう。ただ単に顔だけを見て手をつけたとでも言うのだろうか。こういう時代のお遊びの関係で、いつも泣くのは女。庄屋の娘……霞さんはどんな思いで正体のしれない男の子供が育っていくのをみていたんだろう。少なくとも、幸せいっぱいではなかったと思う。というか、一週間でお腹が張ったのは、子供が欲しいと桜の精に言ったからなのではないか。そうみると、武家の息子の取った行動は自己中心的で、利己的だ。
けれど、とも思う。
もし、武家の息子が霞さんを側室として遇していたならば、どうなっただろうか。少なくとも霞さんは錯乱することも恨むこともなく過ごしていたのかもしれない。奥方は気が気ではなかったかもしれないが、呪い殺されずに済んだはずである。
人の心とは、かくも難しいものなのだ。
しょうもない考え事から戻ると、ざぁ、と音を立てて、枝が揺れた。まだまだ堅いと思っていた枝の先から、ふわり、ふわりと花びらが散った。
ですが、近所にすごく綺麗な桜が咲いているので、ネタに書いてみました。
そういえば、最近「ドラゴンキーパー」という携帯ゲームにはまっています。とてもおもしろい。SSを書く要素がたくさんあると思うのですが、見つかりません。時間が出来たら書くかもです。
まぁ、これはホラーですが、多分ぬるいかと思われます。でもこれ以上ぬるいの書けませんので、あしからず。
では、どうぞ。
書き忘れていましたが、この作品は全くもってフィクションです。作中の土地には全く関係ありませんのであしからず。
「春、桜の花の下で」
桜が、咲いた。
近所の小学校に桜の木がある。
昔の日本固有の桜ではなく、数十年前に品種改良されたソメイヨシノと八重桜のベタな組み合わせだ。小学校と中学校に通っていた頃はいつもの光景だったのだけれど、高校になってからはあまり見ない光景に、まして浪人することになってしまってからは全く見ない光景になってしまった。
「桜の木の下には死体が埋まっている」
そんな話を聞いたことがある。死体の血を吸って育つから、花びらが紅いのだと。それを聞いたときは結構小さかったと思うのだけれど、怖くて眠れなかった。
今はどうかと聞かれたら、笑ってごまかすしかないのだけれど、よくよく考えたら無理かなとも思う。
確かに人間は毎日何処かで必ず生まれ、その命を終えてゆくけれど、よりにもよって小さな子供が通ってくる学校の端っこに、しかも数十センチおきに埋めることはやっぱり気が引けるのではないか。
そう予備校で知り合った秋谷君という男の子に言ったら、彼は失礼にも笑い飛ばしてくれた。
「だって、どっかのマンガにもあっただろ?そういう話。春風さんの小学校、そんなに新しいの?」
「新しくはないわよ。どっちかっていうと、古いほう」
小学校は私が2年生の時、100周年を迎えた。
だから今、111周年を迎える頃、ぞろ目の時期だ。要するに、1世紀は経っているってことである。だけど、今から111年前っていったら1897年、日清戦争が終わってちょっとした頃だ。
いくら何でも、そこまで平民の人権を蹂躙する権利は、建設業の偉い人だってないのではないか?
「いいや、それはどうかな」
彼はめがねをきゅっと押し上げて、嫌味に笑った。普段が大人しくて地味でイイヤツなだけに、こういう時にはギャップが激しすぎて呆れてしまう。
そう、彼はこのテの話(要するに都市伝説とか歴史が絡むような話)には異常に詳しくて、絶対に出身校ではオカルトマニアとか歴史オタクとか言われていたに違いない。
「人身御供って知ってるだろ?」
「ああ、橋を架けるときとか建物を造るときに沈める人間のこと?」
「そうそう。アレだって、人権を蹂躙しているようなもんだ。だってその人が生きる権利を村人全員で奪っているんだからね。それと同じようなことが、あの時代に起こっていても不思議じゃない。何せ文明開化が進んでいる割には農民はまだ江戸時代と同じような目に遭っていたわけだし、差別なんかも撤廃されたわけじゃなかった……」
「ああ、もういいからいいから」
放っておくと昼休みが終わってしまう。私も秋谷君も席は取ってあるからいいとして、注文したクラブハウスサンドとサラダが食べ終わらないともったいない。
私はともかく、彼はまだサラダに手をつけていないのだから。
「聞きたくない?この間本で読んだんだけれど」
「いや、聞きたいけど授業始まっちゃうって」
「そうか……残念!」
いいから食べろ、と言いたい。
本当に彼は何で日本史を取らずに政治経済を取っているんだと思う。というか、日本史を取っていれば、今頃彼は大学生だったのではないか。いや、今年浪人の私に言えたことではないのだけれど。
授業が全て終わったあと、私たちは本屋に寄っていくことにした。
何故複数形かというと、途中まで電車が同じだからだ。
小田急線の新宿駅から急行で、登戸まで。急行より速い快速急行があるのだが、これがうまくなくて、新宿を出たあとに代々木上原、下北沢から新百合ヶ丘まで行ってしまうので間にある登戸に止まらない。
私はそのあと新百合ヶ丘まで行って、唐木田行きの電車に乗り換える。秋谷君は南武線で立川まで行くんだったと思うが、よく覚えていない。
で、なぜ寄っていくのかというと、これは一種の習性みたいなもので、私も彼も本が好きだからである。確か今日は誰それの新刊の発売日だった、と受験生の癖して好きな作家の新刊は覚えているのである。まあ、これがいわゆる「読書中毒」というやつだろう。
お目当ての本は、確かにあった。
だが、その横。平台に積まれた本の山の中に、見つけてしまった。黒地に赤文字、桜の花が舞っている表紙を。
タイトルは「春、桜の花の下で」。ミステリーなのか、ホラーなのか一瞬判別が着かなかったが、帯に書かれた言葉でわかってしまった。後者だ。
ふらふら手が伸びて、その本を手に取った。怖いはずなのに。引き寄せられるように。
「春風さん、その本、買うの?」
「あ、うん……」
「ホラーじゃん」
「ちょ、ちょっとね……」
秋谷君はふうん、と言うと私をレジに促した。
帰り道、私たちはやっぱりその話で盛り上がった。昼休みの、桜の話である。
「そういえば、僕の家の近くにやっぱり桜の木があるんだけどね」
うん、と返すと秋谷君はにやりと笑った。
「怪談があるんだよ」
「な、にそれ……」
「昔、庄屋の娘だかがいて、その娘がたいそう美しかった。まあどれだけ美しかったかは知らないけど、不思議なもので男どもが言い寄らない。で、ある日父親が娘に縁談を持っていこうとすると娘の部屋から笑い声が聞こえる……」
父親が覗いてみると娘の側にはたいそう美しい身分の高そうな男がいたのだが、いきなり戸を開けると娘一人しか部屋の中にはいない。娘を問いつめてもそんな男は知らないと言う。
だが、数ヶ月後、娘は月の障りが止まったことに気付く。そのころには、娘は父親の持ってきた縁談を受け入れ、隣村の名主の息子のところに嫁ぐことになっていた。父親は娘が美しい男のことを隠しているのだと思い、娘にその男と別れるようきつく言うが、彼女は泣いてばかりいる。
そうこうするうちに7日が経ち、急に娘の腹が大きくなる。そのことを知った名主から縁談を破棄される。庄屋親子が悲しみにくれる中、娘は無事に子供を出産するが、その子供が初七日も済まないうちに神隠しにあってしまう。
それから三日後、その美しい男が武家の息子として娘の前に現れ、子供はその奥方の腕に抱かれていた。錯乱した娘は包丁を持って奥方に斬りかかり、武家の息子に斬られてしまう。まだ息のあった娘は恨みの言葉を残して自害する。
その後、後を追うように庄屋一家もこの世を去り、哀れんだ村人が庄屋の家族の分だけ寺に遺体を埋めたすぐ側に桜を植えた。
が、それから一ヶ月たち、あり得ない早さで娘の桜は大樹となった。武家の息子はそれを聞き、奥方に話したところ、気味悪がるので切り倒させることにした。だが、切り倒そうとすると冬でもないのに雪が降ったり、夏でもないのに雷が鳴る。怪しんで息子が直々に行くと丁度娘を斬り殺したあたりであの時と同じ恨みの言葉が聞こえる。ますます怪しんで桜の木の場所まで行くと、他の桜はまだ低いのに、その桜だけ何百年と経たように花をつけている。じっと見つめていると、娘の姿が花吹雪と共に浮かび上がり、恨めしげに涙を流すではないか。
「そなたは何者だ」
と息子が聞くと、彼女は覚えておられませんのね、と言う。
「わたくしから子供を取り上げておいて、いくら桜の精のお姿を借りあそばされたとしても当の貴方様が忘れておいでとは……」
それを聞いて息子は思い出した。彼は以前、奉公にでていた庄屋の娘に手をつけたことがあった。それから、少しだけその娘をみたくて、庭にあった桜に願い出たところ、夢で彼女のところへ忍んでいたのだ。息子の立場では非常に後ろ暗い話である。
「……それで息子はしらばっくれて、『子供は捨て子で、桜の精が妻に託したのだ。だからお前など知らぬ』と言うと、娘は美しい顔を般若に変えて息子と奥方を呪い殺してしまった。それ以来、怒りを鎮めるために赤ちゃん関連のものをお供えしてるんだ」
「へぇ……」
「でも、春になってラブラブバカップルがその桜……『霞桜』に来ると、強制的に別れさせられるか、子供が神隠しに会うんだそうだ」
ラブラブバカップル、をやけに強調した長い話を聞き終えて、私は身震いをした。桜にそんな話があるとは。秋谷君はにやりと笑った顔のまま、「来年、合格したら行こうか」などと言う。
「いや、それは……」
「カップルじゃないし、いいんじゃないか?」
「いや、あの」
そういったとき、登戸に着いた。
文庫本「春、桜の花の下で」はやっぱりホラーだった。しかも、秋谷君の話とほとんど似た話を題材として。ただ違うのは、子供が神隠しにあうのではなく、男の方が死んでしまう、というもの。どちらにしたってホラーが苦手な人が夜に読めない代物だった。最寄り駅を降りて家まで久しぶりに歩くことにした。
道中考える。
一週間でお腹が張るというのはどうなんだろう。全く持って非科学的な話だ。
だが、どうして武家の息子はしらばっくれたんだろう。ただ単に顔だけを見て手をつけたとでも言うのだろうか。こういう時代のお遊びの関係で、いつも泣くのは女。庄屋の娘……霞さんはどんな思いで正体のしれない男の子供が育っていくのをみていたんだろう。少なくとも、幸せいっぱいではなかったと思う。というか、一週間でお腹が張ったのは、子供が欲しいと桜の精に言ったからなのではないか。そうみると、武家の息子の取った行動は自己中心的で、利己的だ。
けれど、とも思う。
もし、武家の息子が霞さんを側室として遇していたならば、どうなっただろうか。少なくとも霞さんは錯乱することも恨むこともなく過ごしていたのかもしれない。奥方は気が気ではなかったかもしれないが、呪い殺されずに済んだはずである。
人の心とは、かくも難しいものなのだ。
しょうもない考え事から戻ると、ざぁ、と音を立てて、枝が揺れた。まだまだ堅いと思っていた枝の先から、ふわり、ふわりと花びらが散った。
テーマ : ショート・ストーリー - ジャンル : 小説・文学
コメント
お返事
はじめまして。
通りすがりのブログサーハーです。
拝読いたしました。
これ、縦書きだったら、もっと伝わるんじゃないかな、と。
横書きだと、ちょっと読みづらいぶん、読む苦労でおもしろさがそがれてしまうんじゃないかなあ、と。
では。
拝読いたしました。
これ、縦書きだったら、もっと伝わるんじゃないかな、と。
横書きだと、ちょっと読みづらいぶん、読む苦労でおもしろさがそがれてしまうんじゃないかなあ、と。
では。
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ですよね……私は基本的に縦書き用のものを横に書いているのでよけい見づらいのかもしれません。HPに移行するときは縦書きにしておきますね。
では、貴重なご意見ありがとうございました。