『巫女の調べ』

なんか暗いかもしれない。
まぁ、表で置けるギリギリですね。
もしかしたら「誘絵巻」やある合作の登場人物を見て、アレ?と思う方もいらっしゃると思いますが、全く別物です。いやほんと。
合作はまた調整して戻ってきます。長編にふさわしくボリュームもクオリティもアップさせたいと思いますので、よろしくお願いします。
では、どうぞ。




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草原の上に、少女が立っていた。
若草色のワンピースに、グレーの髪。前を見据えた瞳は、何の感動も映していない。そのくせ、瞳の奥では何かの迷いを押し込める壁を作り出していた。
風が吹く。
桜色の唇が、動く。
声は、でない。
ばたばたと忙しなく揺れるワンピースの裾が大きく空気をはらんで、ふわりと浮き上がった。

少女の白い手が、髪に伸びる。一部だけを結んで、首の付け根のところで全ての髪を結んだ、その結び目に手をかける。ぶつり、ぶつりという音がして、髪が広がった。目を、閉じた。
彼女の手が、髪を結っていたゴムを手放す。その行方を少し目で追って、また唇が、動く。
「         」
言葉にならない思い。言葉にならない歌。
少女は身体を折り、その場に座り込んだ。
「         」
声にならない祈り。声にならない叫び。
狂い出しそうな風に、彼女は自分の思いを託した。
「         」
玉の涙が散る。少女は許しを請うていた。
誰に?ー−−誰かに。
何の許しを?ー−−遠い日の懺悔を。
何故?ー−−自分の犯した過ちを、確かめるために。

少女は傍らを見た。そこに、ヴァイオリンのケースがあった。
本当ならば、彼女はもう、持とうとは思わなかった。
最後の審判……まさにそれだった。彼女の居場所は何処にもない。彼女の行き先は何処にもない。
居場所も行き先もなくした巫女、それが今の彼女だった。
泣いてしまおうと思ったわけでも、逃げようと思ったわけでもなく、ここにいたいと願っただけなのに、それ自体が許されないことだった。
必要のなくなった巫女は審判によって処分が決まる。
その前に、彼女は生きたかったのだ。否、活きたかったのだ。
駒ではなく、人として。
自分という人格が、完全に第三者によって殺される前に、少しだけ、活きたかったのだ。
彼女はヴァイオリンのケースを開けて、楽器を取り出した。そして、それを恋人にするように抱きしめた。

それだけが、彼女の理解者だった。
誰からも理解されなかった彼女は、ヴァイオリンだけを心の支えとして生きてきた。だから、いつまでもヴァイオリンと共に、居場所を守りたかった。
それなのに、それは許されない恋だった。
恋、そう、恋だった。
手の届かない高みに上り詰めていたわけではない。かといって、名前も知られぬ人間ではなかった。
彼女は、ヴァイオリンによって活き、ヴァイオリンを生かした、巫女だった。
もともと、居場所などなかったのかもしれない。
全ての音を教えてくれた師も、自分を生んだ父も母も、彼女を巫女として遇した周りの者たちも。

桜色を載せた唇がきゅ、と噛まれる。二重を描く瞼が、ふるりとふるえた。
ヴァイオリンが顎の下に構えられる。弓が、勢いよく引かれる。
悲しい歌が、流れる。
美しい旋律で、風に乗って、いつまでも、何処までも流れた。
彼女の人としての心が、涙を流して、歌っていた。
傷ついた巫女に、使える神は何もしてくれなかった。
何故?
何故?
何故?
その問いが、全ての人間に届けられるように。

曲が終わる。少女はいつの間にか目の前に来ていた太陽に、眩しそうに目を細めた。足下の草原が、昼の終わりを告げてざあざあと揺らめく。巫女はヴァイオリンをしまうと、外のケースを半分開けた。
若草色の靴と薄い桃色の靴下を脱ぐと、白い足が現れる。それらを自分の前に据えた。
ワンピースに手を入れて、桜色の下着を抜き去った。それらをヴァイオリンケースの開いた半分に放り込んだ。
ワンピースの前ボタンをはずす。白い鎖骨の上に、金色のペンダントが現れた。
裾をつかんで、たくし上げる。腰までがあらわになり、胸元までがあらわになった。
巫女はワンピースを取り払うと、ヴァイオリンケースの上に掛け、裾をたくし込んでケースを包んだ。

何も遮る物のない姿で、少女はあらん限りの声で歌った。
ヴァイオリンと歌った曲を、今度は少女一人だけで。
一人では何も出来ない自分たちを嘲笑うかのように。
恨みを。
切なさを。
悲しさを。
愛しさを。
そして、叶わない希(ねが)いを。
ばさばさと長い髪をはためかせる風に乗せて。
熱い涙を散らしながら。
巫女は、『活きた独りの人』として唄った。
歌い終わってペンダントのロケット部分を開くと、懐かしい、そして恨めしい、人間たちの姿。
それでも、全てをはき出した巫女には、無用な物としか映らない。けれど、それ相応の感情を吐露する手段は、彼女に残されていて。
好きだった。
好きだった。
好きだった!
私も、居場所が欲しかった!
私も、行き先が、欲しかった!
「                                               !」
少女の叫びが、草原に響き渡る。
すっかり夜になった草原には、灯りすら見つからない。
また、風がざあ、と吹いた。
ペンダントのロケット部分を握って、強く引いた。首にチェーンが食い込むのが、痛みとしてわかる。
「あぁ、痛いわよ……痛いわよ!でも……もうどうだっていいじゃない!!!!」
さらに引っ張ると、一瞬のぬるりとした感触のあとに、ぶつりとチェーンが切れた。
巫女はそれを、風に乗せて、遠くまで運ばせた。

それから、順番通りに服を着て、ヴァイオリンケースを持った。
前に、進んでいった。
過去を断ち切って、生まれ変わろうと。

テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

紅崎姫都香

Author:紅崎姫都香
誕生日:昭和天皇の誕生日の前日(要するに4月28日です)
血液型:A
趣味:小説書き、イラスト描き、楽器演奏
年齢:19。
好きな物(漫画と小説):いろいろ。ブログで書いているモノがそうです。
カップリングは叫んでるやつです。

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