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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

「Unknown Loves」
ひさしぶりに「paranoia」様への差し上げものです。
いやいや、細かいところで爆発してました。

ほのぼのラブコメにしたかったのですが(青木様がリクエストしてくださった内容は「セルトのやきもち」でした)、なんかノンシュガー風味のシロップみたいな感じに。
では、どうぞ。




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「遅かったじゃないか、随分」
バールに帰ってきた彼女にセルトがそういうと、彼女はごめん!と手を合わせた。
「ちょっと、写真のこととかでケスタロージャさんに相談してて」
「そうか」
「うん、だからね」
これからちょっと遅くなるかも、という彼女の言葉に、セルトの心の中にもやもやしたものが生まれた。
そうか、と返す声も固くなっていたのかもしれない。告げた瞬間に、彼女の目に戸惑いの色が浮かんでいたから。
その戸惑いを隠すように、着替えてくる、と駆けていった彼女の手を、彼はつかみ損ねた。

次の日も、その次の日も、彼女は遅くに帰ってきた。
写真のことや、カメラのことなら、自分は専門外だ。
逆に、ケスタロージャは専門とも言える。
兄の友人だというその人の人となりは、セルトにはわかりようもないことだ。
けれども、どうしても彼女の話に彼が上がると、機嫌がいささか害されたような気がしてくるのだ。
彼女はバールに下宿する留学生で、セルトはバールを切り盛りするバリスタ。二人はただそれだけの関係で、それ以上でもそれ以下でもない。
それなのに抱いてしまう感情の得体が知れなくて、それがセルトの気分をさらに落ち込ませた。

そんなことが続いた。

「じゃ、いってくるね」
「……ああ」
ここ数日ですっかりぎこちなくなった会話を交わして、彼女は学校へ行った。
「食器、洗うか」
流しで食器を洗っていると、ミルズが降りてきた。
「兄貴」
「お茶、くれる?それと、洗うの終わったら僕の部屋においで」
珍しく、呆れたような顔で彼は言う。
わかった、とミルクティーのカップを渡すと、ミルズは苦笑いしながら部屋へと戻っていった。
「なんなんだ?」
思い当たる節はないわけではない。
最近の彼女とのやりとりに、彼女を妹のようにかわいがっている兄が、セルトに何も言わなかった。それが何を意味するのかはわからないが、少なくともセルトをからかうためでは、絶対にない。けれど、セルトのぎこちなさに意見するのならば、このバールでも事足りたはずである。
思い当たる節があるのにその意図するところがわからなくて、セルトの悩みに拍車を掛けた。

ノックをすると、中からどうぞ、と聞こえた。ドアを開けてはいると、いろいろな文献に囲まれた、兄の姿。
「セルト、突然だけど、今日って何日だっけ?」
いきなりの質問に面食らって、彼はカレンダーを見上げた。
「今日って……」
そして気付く。
「俺の……誕生日」
ミルズの顔を見ると、いつも通りの微笑みをたたえていた。
「正解。ハッピーバースディ、セルト」
ほら、プレゼント、と言われ、包みを受け取る。
「二週間、だっけ」
「は?」
「あの子が遅くなるの」
「あ……ああ」
そこでセルトは気付いた。ミルズはまた、呆れたような微笑みを零している。
「ケスタロージャは、信用がおけると思うんだけどね」
「まあ……あいつも信用してるみたいだし」
「うん。……本当はね、ちょっと前に僕は知らされてたんだよね」
「あいつが遅くなること?」
「そう。で、言わないでって頼まれたし、二人のフォローはなるべくしないようにと思ったんだけどね」
そこで、ミルズは言葉を切った。
「けど……なんだ?」
「今日は早く帰ってくるよ、彼女」
言い切る兄が、あまりに自信ありげなので、セルトは思わず頷いてしまった。

「ただいま~」
朗らかなのにどこか緊張した声は、昨日のような真っ暗な夜ではなく、夕暮れ時に聞こえた。
「早かったな」
「うん」
「夕飯、後少しだから」
「うん!今日のメニューは?」
「地鶏のローマ風煮込み」
賛嘆の声をあげた後、彼女は思い出したように言った。
「そうだ、セルト」
「ん?」
「ご飯の後、時間ある?」
「ああ」
「ちょっと、つきあってもらえる?」
「わかった」

自分の誕生日なのにさして豪華と言うほどでもなく、デザートにケーキが付いたわけでもない(彼女には特別にパンナコッタを出した)夕食が済む。
食べ終わるや否や彼女は自室に戻り、包みを抱えてきた。
「はい、セルト」
「あ……ああ」
「誕生日、おめでとう」
輝く笑顔と共に告げられて、セルトの鼓動が早まっていく。
「それね、二週間前から用意したの」
それは、以前セルトが町で見かけて、欲しいと思っていたジャケットだった。質の良さからかいささか高く、持ち合わせがなかったこともあって、買い逃していた代物だ。
「そのために、写真を撮ってたから、遅くなっちゃって」
内緒にしておきたかったの、そう珍しく苦く笑う彼女に、彼は罪悪感を覚えて、その身体を引き寄せた。
「ごめんね」
「お前が謝ることじゃない……勘違い、してた」
腕の中から、彼女が彼を見上げて、首をかしげる。
「セルト……それ、やきもち?」
「え……」
言った彼女の頬にも、言われたセルトの頬にも赤みがさす。
そうして互いに照れ合ったまま、ぎこちなさの融解した誕生日は、過ぎていくのだった。
夜空の星に見守られながら。

おわり
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