fc2ブログ
創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

『One Hand,One Heart』
はい、どうにか最終回を迎えました。
よかった~。
これからお届けしてまいります。
明日からはオリジナルも頑張ります。
では、どうぞ。
『One Hand,One Heart』

約束の2時間が、来た。
ドアがばたんと無遠慮な音を立てて開かれる。
「……村山さん?」
「村山……」
「蓮谷さまがおいでになりました」
蓮谷の後に続いて、取り巻きたちと、村山が入ってくる。
「……この私を泣かせられるものなら、泣かせて見せなさい」
蓮谷の挑発的な言葉。取り巻きたちの、亮を品定めするかのような視線。
「はじめましょう」
亮は、月夏の言葉に、おとなしく目を閉じた。

美しい旋律が、部屋に流れる。
うっとりとした取り巻き。仏頂面で目を閉じている蓮谷。何処か甘い調べに身を委ねる村山。
そして、隣で演奏する亮を見つめながら、月夏は思う。
---本気だったから、ここまで……ここまで来れたの?
別に、彼女は遊びでもなければ彼を利用しようという気もなかった。純粋に、3つ年下の聡明なこの少年が、好きだった。
サーヴ一つで卓也に苦情を言って、彼が困っていたのを見かねたのが始まりだった。
ヴァイオリンに対する過剰な自信。
コンクールで大敗したときの涙。
弱さを見せられて、こちらからプライドを混ぜ返して。
背伸びした少年の言葉に、彼女も散々振り回された。
いい加減ウィーンへ行った方がいいかしら。そんなことを考えた日も少なくない。
---だけど……泣きたいくらいに、好きになってるんだから。ううん、これは、好き、っていうより……。

そこで曲が終わる。次の曲へ。

隣で音の渦に身を投じきれない月夏を見つめて、亮は思う。
---彼女にとって、僕はどういう存在だったのだろう。
たまたまカフェで、卓也に苦情(後で、まだ経験の浅い実に完璧なサーヴを求めるのは酷だと教えられた)を言っていたときに現れた少女。
ヴァイオリンのコンクールで失敗したときも、強がっていたときも、プライドを突き崩すような一言で感情を混ぜっ返してくる。
自分も散々振り回したという自覚はあるけれど、不思議と二度とあのカフェへ行くまいとは思わなかった。
そして、月夏がこんな境遇にいることも知らなかった。
---けれど……僕は約束した。礼儀作法からヴァイオリンまで、全てを教えると。傍にずっといたいから。この気持ちは多分……好き、というよりは……。

いつの間にか曲は5曲とも終わり、拍手が起きようとしていた。
刹那、ヴァイオリンとフルートの愛の調べが空気を突き抜けた。
ミュージカル「ウェストサイドストーリー」でトニーとマリアが歌った愛の曲。
---これは……愛してるってことだ。
伴奏は足りないけれど、二人の音はどこまでも互いを思う愛に満ちていて。
月夏はその音の甘さに耐えられなくて、もっと甘くと吹き上げる。
---こんなに愛し合っているのに……音もだけど……どうして、私たちはこれ以上の幸せを求めてはいけないの?
せつなさをこめた音色が、スケールを奏でた。

「……村山君」
蓮谷は目を閉じたまま村山に話しかけた。
「はい」
「……私は、あれ……月夏の演奏で泣いたことなど無かった」
「……」
「変わったのかもしれないな、月夏も」
「……そう、かもしれませんね」
「亮君も、随分変わったようではないか」
「……ええ」
「なにより……私自身の音楽に対する情熱が、また戻ってきたのかもしれないな……」
「……はい」
蓮谷の目から、涙が転がり出たのをみて、村山は涙混じりに微笑んだ。
曲が終わる。
「ブラーヴァ!」
拍手が、割れんばかりに響いた。奏者の二人はそつなくお辞儀をして、蓮谷を見る。
「……お父様」
「……成長、したな……二人とも」
「……はい」
「亮君。月夏は君も知っているとおり、ああいう性格だ。それでも付き合っていけるかね?」
「はい。……お約束します」
「月夏。亮君はまだ、中学生だ。彼が大学を卒業するまで、待てるか?」
「ええ。待てるわ」
二人の答えに、蓮谷は満足そうに微笑んで、言った。
「では、私の方からは、二人の婚約を認めよう……ただし、内定という形で。亮君のご両親には、私から話をしよう」
「ありがとうございます……!」
涙目で抱きついてくる月夏を受け止める亮の目も、珍しく、涙で潤んでいた。

「で、お前らはその報告をしに来たのか、俺たちにのろけに来たのか?」
ダンスパーティから数日後のことである。カフェで首尾よく全てを聞いた鉄は、呆れたように聞き返した。
「お礼を言いに来たのよ……ありがとう、カードと花束」
「いや、このガキが花の一つも持ってないから……」
「でも、どうしてミニバラ?」
「他意はない」
「どうしたの?」
実がコーヒーを運んで来がてら、話に割り込んだ。
「月夏さん、それ、婚約指輪?」
あまりに無邪気な声で聞くものだから、見知った顔の店員並びに常連が調理や食事を放り出して集まってくる。
「何、彼はもうそんなものを贈ったの!?」
「ませたやつ……」
「婚約内定指輪、よ」
「内定……」
聡がああ、と呟く。
「まだ結婚出来る年齢に達していませんからね……」
「……いいなぁ、指輪」
ユウが羨ましそうに見つめる。
「ユウちゃんも、今度、パーティ、来る?ドレスは貸してあげるから」
やったあ、とユウは喜んだ。
「それで、結婚式は何月を考えているの?」
と店長。まだ考えていない、と二人で言えば、彼はおっとりと提案した。
「じゃあ、いっそのこと、二次会も披露宴も、ここでやれば?」
「……好いている方が味があるって言ったの誰ですか」
「まぁまぁ、正樹。いいじゃない、おめでたいことだし……しかもそれ、鉄が最初に言ったんだよ?」
「……ちょっと待て」
鉄が抗議の声をあげ、カフェ内はちょっとした騒ぎが起きる。
「……なんか、二人で何とはなしに言い始めた気がする」
喧噪を眺めながら言う月夏に、亮は微かに微笑んだ。

おわりです。ありがとうございました。
「」
スポンサーサイト




Comment

 秘密にする

Track Back
TB*URL

Copyright © 胡蝶苑. all rights reserved.