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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

『Chim chim cheree』
さて、なんだか前回暗くて暗くてしょうがなかったですが、今回はまた浮上します。そのためには……ボス、いつも傍にいてね♪ボス、けして私、見捨てないでお願い♪
というわけで、冷めないうちに、どうぞ。

『Chim chim cheree』
「……月夏の、父です。何をしているんだ?二人とも」
「……お父様」
「月夏、勝手にパーティを抜け出して……こういう事だったのか」
「……ええ」
涙に濡れた目で、月夏は肯定した。父親は呆れたような目で未だくっついたままの二人を見てから、溜息を吐いて、村山に命じた。
「離れさせなさい。村山君、君には少し、話がある……あれと結婚させるつもりならば、まだ早すぎる……」
「ええ、蓮谷さま。そのことは社長の方も申しておりました」
「一時は3つ違いだし、商談もいろいろあるからと、婚約させる話もあったのだが……」
「はい」
「まったく……ウィーンに恋人がいるなどと出任せを言って最近はパーティにも出たがらないと思ったら……」
やはりジュリエットは奔放すぎて、父親の蓮谷でさえ扱いにとまどっているようだ。
「……亮さま、月夏さま……」
「あ……」
今更ながらに月夏は顔を紅くして、亮から離れた。亮の顔も珍しく紅くて、カフェの顔なじみたちにこれを話したら、きっと珍しい反応を返してくれるだろう、と村山は密かに思う。
「亮さま、そう言えば、花束は……」
「……これを」
そう言って差し出されたのは渡される機会を失ってもなお美しいピンクのミニバラ。月夏はそれをそっと受け取って、ありがとう、と呟いた。
「……亮君」
不意に蓮谷に声を掛けられ、亮ははっと彼を見た。
「本当は、今日のパーティであれの婚約者を披露しようと思っていた」
「婚約者?」
「ウィーンの方の商社の子息と、話が持ち上がっていてね……そのためにあれを渡欧させたのだが、フルートばかりやっていて、肝心の子息とは会わずじまい。音楽院が終了したのを見計らってこちらに連れ戻したのだが、それが大きな誤算だった」
「じゃあ、時間が無いというのは……」
「あれは知っていたようだからな……全て」
「……そうですか……愚問ですが……何故、月夏さんのことを『あれ』などとおっしゃるのですか?」
蓮谷は亮の質問に、鼻で笑った。
「君も子息なら、分からぬはずはないだろう……月夏は……いわば我が蓮谷家の道具なんだよ」
ひゅっ、と、取り巻きの一人の喉が鳴る。道具呼ばわりされた月夏は、涼しい顔で床に座り込んだ。
「道具……」
亮とて、父親に遊んで貰った記憶などはほとんど無い。しかし、道具呼ばわりされたこともまた、無い。
「戦国大名の話を知っているかね」
「……あなたは、自分が大名だとでも?」
「そのためならば、なんでもするさ」
張りつめた空気。村山も、取り巻きたちも、どうしていいか判断が付きかねた。
「亮さま……」
「……わかってるわ、お父様」
だんだん顔つきが厳しくなってきた亮を宥めようと村山が近寄ったとき、不意に月夏が立ち上がった。
「Chim chim-in-ey, chim chim-in-ey
Chim chim cher-ee!
A sweep is as lucky, as lucky can be
Chim chim-in-ey, chim chim-in-ey
Chim chim cher-oo!
Good luck will rub off when I shakes 'ands with you……」
「チムチムチェリー?」
前に月夏が吹いていた曲。
それを誰からも顔を見られないようにいま、彼女は歌っている。
「もう、いいでしょ?あの人も私も、ジュリエットなんだから……」
「え……」
「彼、通っていた音楽院のクラリネット科の子と付き合ってるの。親御さんは結婚に相当反対しているけどね」
「そう、なのか……」
「ええ。だから、いいでしょう?あの話は……言っても無駄だと思ったから、お父様には言えなくて、亮……に時間がないって言っちゃって」
時間、の謎。それは彼女が亮と会える残り時間だったのであろう。
「いいじゃない。あと七年、私、待つわ」
「……村山君、君は?」
「社長も懐かしそうにしておりましたし、お二人さえよければ」
「長いつき合いになる、と言いましたが」
ふう、と蓮谷が溜息を吐いた。そして、二人に楽譜を手渡す。
「二時間やろう。その楽譜の曲から何曲でもいい。私を感動させられたら、婚約は内定と言うことにしてやろう」
渡された楽譜は、『私のお父様/オペラ「ジャンニスキッキ」より』『主よ人の望みの歓びよ/J.S.バッハ』『愛の挨拶/エルガー』『「フィガロの結婚」序曲/モーツァルト』『乾杯の歌/オペラ「椿姫」より』の五曲。
二人は黙ってそれを、開いた。

またまた続きます。
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