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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

『Alles fühlt der Liebe Freuden(誰でも恋の歓びを知っている)』
あは。調子に乗って『Romeo and Juliet?』の続編を書きました。
お届けしてきた所、問題ないとのことでしたので、またお届けしてきます。
今回書きたかった所が、何故かヒロインがヒールを脱ぎ捨てて裏庭を走る所……結局抱え上げて走って頂きました。
では、どうぞ。

『Alles fühlt der Liebe Freuden(誰でも恋の歓びを知っている)』
実はチケットだった紙切れに書かれていた会場に、亮は割と時間通りに着いた。時間通りだったのは、思いのほか道が混んでいたのと、いつものカフェを通る時に、何故か店長に呼び止められたからである。
亮はヴァイオリンを、村山はチェロを携えて、会場に入った。ついでに、亮の手にはピンクのミニバラの花束。それに、何故かこの日に限って集まっていたカフェの店員と常連からのカード。
『あ~、やっぱりこっちの高校行ってなかったんだ』とは話を聞いた店員の卓也の感想であるが、話の途中で常連の鉄(亮はまだ大きな人だと思っている)が店長とアイコンタクトを取って店を出て行き、5分で花とラッピング用アイテムを買ってきて、その場で包んでカードを添えた、というのが事の顛末。
---やっぱりって……。
まさか気付いていたのではないかと思うと、少し悔しい。そんなことを考えていると、客席が暗くなり、ステージが明るくなった。本日の主役の登場である。
月夏はペコリとお辞儀をしてみせると、傍らに座る伴奏者に合図をした。何故か、亮とは目が合わない。
ややあって、流れ出したのは「アヴェ・マリア」。
優しく何もかもを包み込む聖母の調べ。
けれども、それを聞く人々の間では賛美と政略の囁きが密かに流れる。
「今日のパーティで月夏の婚約者が決まるらしい」
亮は僅かに顔をしかめる。
演奏中なのに、無粋なことを。
ステージの上の彼女もそれを感じ取ってか、音色を僅かにきつく変えた。
優しいだけではなく、何処か芯の通った、翳りも帯びた聖母。彼女はその響きに終始して、曲が終わった。
賞賛の拍手がなる。
---この間、聞いた音とは少し、違う……?
隣の村山も少しとまどったような顔。
そして、やっと。
ステージ上の月夏と、目があった。
次の曲が始まった。
「亮さま?」
「村山、この曲は……モーツァルトか」
「はい……フルート協奏曲です」
美しく、爽やかな音色が会場を満たす。高音の繊細さは何処か甘さを含んで、まるで花畑に来た時のよう。
その爽やかな風は、先ほどまで漂っていた入り組んだ囁きを吹き飛ばしてしまった。
「村山」
「はい」
「この曲……こっちを向いて演奏していないか?」
「……確かに……」
真っ正面から外れた位置にいるのに、月夏の身体は明らかにこちらを向いている。
そして3楽章全てが終わった。またお辞儀をして、舞台袖に戻っていく。
客席が明るくなって、ウインナワルツが流れはじめた。
「……村山」
「はい」
「踊る相手がいないのでは、踊れないな……」
「……あちらに」
村山が苦笑して見遣った方向には、薄いピンクのAラインのサテンドレス。そのドレスの主は、普段とはうって変わって、ふふん、とイタズラっぽい微笑みを浮かべた。
「……月夏」
「来てくれたのね」
「ええ」
「ドレス、マーメイドラインの方がよかった?」
いつもと変わらないからかい方。
「……似合ってますよ」
「ありがとう」
そう言って、月夏は亮のヴァイオリンと村山のチェロに目を留めた。
「せっかく楽器持っているんだもん……ちょっとくらい……」
「え……」
「お父様もお母様も見あたらないわよね……」
そう呟くと、彼女はやおら亮の手を掴んだ。
「二人とも、急いで来て!」
言うが早いか、月夏はダンスホールを飛び出し、何故か女子更衣室に駆け込んだ。
「……そこ、女子更衣室……」
「いいから入って!」
と、亮たちを入れて、鍵を掛け、バッグを取って、ヒールを脱いだ。そして本日の衣装と楽器を全て持って(衣装は村山が持ってくれた)、ドレスの裾をものともせずに更衣室の窓から飛び降りた。
「……一階でよかった……」
亮は安堵して、月夏の手招きに応じて建物を抜け出した。
---仮にも令嬢が靴無しで歩くのはどうかと思いますよ?
そう囁いて、亮は月夏を抱え上げた。
「重くはないですね」
「失礼な。私は誰かさんと違ってレッスンも全部歩きよ」
「……しょうがないでしょう」
「まあね。車に向かって。裏門よ」
かくして、三人は会場を密かに抜け出した。
『じゃあ、ジュリエットによろしくね、ロミオ』
店長が笑いを堪えて言った言葉が、亮の頭の中でぐるぐる回っていた。
---ジュリエットは靴無しで走らない……。

ごめんなさい、続きます。
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