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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

天音道中神導~魂は音と共に~ 第12話
ヤバイです。ストックが……。
というわけで、「天音道中神導~魂は音と共に~」の第二話です。
やっぱり暗めですね……。このお話は当分暗いままです。
では、どうぞ。




診療所に担ぎ込まれた男……トキカゼ・サンドウは、姪のアマギに旅行鞄を渡して、10分ほど延々と語って、この世を去った。
鞄には紙がたくさん入っていて、その全てに詩が綴られていた。叔父の遺言通り、アマギはそれを短剣で突き刺して封印した。
マリカの両親を殺したあと、しばらくトキカゼは同じような生活を続け、いつ頃か、アマギが旅に出たあとに彼の生まれ故郷、ガレッタ村に流れ着いた。そこでしばらく療養してから、彼はこの町に戻り、道すがら、自分の血で詩を書いていた。自分の行いを懺悔するかのように。自分が病み患い、長くないと知っても。
そして、アマギとマリカの2人を呼び寄せ、すまないと謝って、静かにこの世を去った。だれも、取り乱さず、涙も流さず。
間をおかず、ちょっとした葬列と共に、詩も、霊使いも、葬られていった。
その様を、一柱の神が見ていた。
自分を信じた霊使いを救わなかったことを、彼は少し後悔したのかもしれない。しかし、彼はこの先、救おうとは思わなかった。生者も大事は大事。しかし、その生者に恨みを持って死んでいく者の供養も先決ではないか?
問いかけても誰も気付かず、それゆえに誰も何も言わないその中で、彼は自答もしなかった。自分が目指すもの。何人たりとも理解し得なくとも、成し遂げてみせる。
その神を、さらに一柱の神が見ていた。
空に登っていった男は、自分が呼んだ者達をことごとく詩の糧にした。その者達の愛した者達が、今、自分の元に集っている。本当ならば、そこで封印させるべきだろう。
けれど。
それで一人でも涙を流す者がいるのだから。彼女はその道をやめた。
この旅の中で、これ以上このようなことは無くさなくてはならないと思ったから。

そして2人は思う。この呪われた島の、エンデュアリ島の成り立ちを。

第12話 呪われた島、エンデュアリ


小さな葬列を終えて、クリセル達はホテルに戻った。一番ショックなはずのアマギは無表情でホテルのクッションに突っ伏していた。
「ねぇクリセル」
クッションに突っ伏したまま、アマギが話しかける。
「ん?」
「お腹空いたから、売店で何か買ってきて」
お腹空いたって、さっきお昼食べたばっかりでしょうが!とクリセルは突っ込みかけた。そう言えば、昼食時に一番食べていたのもアマギだった。トキカゼの容態が気にかかって、彼女以外の全員が喉を通らなかったオープンサンドとリンゴのパルフェをぺろりと平らげ、クリセルの分も半分ぐらい勝手に食べた。ちなみに、他のメンバーはアマギが平らげたクリセルの分にも満たない食事量なのに、クリセルのお腹はうんともすんとも音を立てない。食べなければやっていられないのか、それとも別の理由からなのか、アマギはトキカゼが倒れてから、とにかく食べていた。
「出来れば甘いものがいい」
そんな注文もつけてくる。はいはい、と言って、クリセルは部屋を出た。
「私も行く」
シュオナがついてくる。
「……何が食べたいんだか」
クリセルのぼやきに、シュオナが頷く。とりあえず、チーズケーキとチョコレートケーキを買って、部屋に帰る。階段を上がりながら、シュオナが呟いた。
「……複雑な心境よね」
「……ああ、あのことね……」
「マリカなんか一口も食事に手をつけなかったけど……」
「……なんか買っていく?」
「……そうね」
また売店に逆戻り。ウサギの形のクッキーを買って、また部屋へ。
「やれやれ……どうしてこうなってくるんだか……」
「そうね……なんで争うんだか」
どちらからともなく、そんな呟きが転がり出た。
部屋につくと、アマギは良いご身分な事に、マリカの膝枕でぐぅすか寝ていた。マリカは何もいわず、無表情で、窓の外を見ていた。
「アマギ……寝ちゃったのね」
「ああ。……ついさっき。強引にソファに引っ張ってこられたら、これで」
「情緒不安定なのかしら」
「そりゃあ、ね」
「買ってきたケーキ、無駄になっちゃったかな……」
「俺たちが食べようか?」
「賛成」
一通りそんなことを言ったあと、メリルがキョトンと辺りを見回して、言った。
「そう言えば……カルロッタ様は?」
「あ……そういえば」
部屋を見回せば、カルロッタは居なかった。トーシャがベランダに出る。
「ベランダにもいないよ」
「……何処行ったんだか」
コレットが呆れ返って、同じくベランダに出て、遠くを見る。何もない。
「……?」
不意に、とがん、ばごん、と、鈍い音が響いた。それと、悲鳴。それがホテルの下から、幾重にも重なって響いてくる。
「何?」
ぽんぽん、とアマギをたたき起こしながら、メリルが呟いた。シュオナがドアを少し開ける。漂ってきた血の臭いに顔をしかめて、すぐに閉じた。
「来ましたわね」
いつの間にかカルロッタがそこに立っていた。しかもドレスではなく、いつもの格好で。
「ドレスは、もう良いですわ。今からこの階下の霊使いを封印して、この町を抜けますわよ」
「どういう事?」
「兄が、すぐ近くに来ています」
「サントート神が……」
「ええ」
「チェックアウトは?」
「もうしました」
「あそ」
と言うわけで、クリセル達はドレスからいつもの服装に替えて、ドアを開けた。待ち伏せていた霊使いに、メリルが強烈な蹴りを食らわせた。
「行きますわよ!」
廊下を突っ切って、螺旋階段を駆け下り、血で汚れた絨毯を踏みつけて一行は走った。途中邪魔する霊使いには、容赦ない制裁を加えて。ロビーの霊使いを全て封印して、ホテルを抜け、大通りを抜けて、脇道に入っても尚、足をゆるめなかった。脇道から裏通りに出て、少し休憩する。
「なんなの……一体」
先ほどクリセルとシュオナが買ってきたケーキをさっさと腹の中に収めて、アマギが呟いた。マリカもメリルと分けながらではあるが、クッキーを食べ終えたようだった。
「感づかれた、と言うことでしょう。葬列の時から、何か予感はありましたが」
「……ということは」
「来ますわよ。準備は良いですか?」
全員が頷いた。そのまま走って、屋根の上に飛び乗った。地面から霊使い達が追ってくる。チッ、とカルロッタが舌打ちして、何か小さく呟いて、手を振った。たちまち霊使い達は倒れる。振り切ると、そのまま町の出口まで一直線に走った。
「久し振りだな」
背後から声が聞こえた。振り返れば、一柱の神がいた。

カルロッタとその神はしばらく睨み合っていた。
「……お久しぶりですわね」
「ああ、久し振りだ」
しばらくして、神が口を開く。
「詩は……気に入ったか?」
「いいえ」
そうか、と彼は頷いた。
「歌は……お気に召して?」
「いや」
そう、と彼女は呟いた。
霊使いという者。それを狩る者。
この島が出来た時から。
二柱の神の間に、緊張ともつかぬ空気が流れる。
「カルロッタ様……?」
「おや……」
耐えきれずに沈黙を破ったクリセル達の方を振り向き、神が問うた。
「カルロッタ……また懲りずに新しい狩人を差し向けたか」
「懲りずに……とは随分な言いようですわね」
「事実を言ったまで」
「そうかしら?サントート神」
神……サントートはあざけるような笑いを一瞬だけ浮かべた。カルロッタの瞳に、緊張が走る。
「儂には敵わない。ただ、神であるが故に」
「いいえ」
意志の強い否定だった。クリセルの瞳に、カルロッタの白いヴェールが映る。それはどこまでも曇ることなく燦然と輝く威厳さえ感じられた。
「私は……この者達を信じていますから」
す、とカルロッタが右手を挙げた。それを、目にも止まらぬ速さで振り下ろす。
途端、轟音が地を揺るがした。
衝撃の波は、真っ直ぐ、サントートへ。当たると思われたそれは、しかし彼になぎ払われた。
「お前は……この島が動く本当の理由を知らぬ」
「え……!?」
「人も時も変化はあるのに……お前は変わらない……ただ、音と知性をもたらすだけの……不変の神」
「……っ!」
サントートはそれだけ言って、消えた。
「カルロッタ様……」
「……行きましょう」
厳しい表情のまま、カルロッタは進むことを促した。
――私は、本当の理由を知らない……?
それが、彼女の疑問であり、負い目であった。

「希望の種を持ちし明日への勇者よ
今旅立て仲間と共に 呪われし詩情を
安らかな夢を朝焼けに描く為
闇のさざ波 その血で封ぜ
光の筋を作れ」
そう歌ったのはいつだったか。生きとし生けるもの、全てを救うためだけに。
「カルロッタ様……。どういう……ことなんですか?」
「この島が動く理由……ですか」
「はい」
カルロッタはクリセルに視線を向けると、静かに目を閉じた。

それは、遠い遠い昔のこと。
突如として現れたエンデュアリ島は、ある日、他の大陸の神々によって頼りなく動く島とされてしまった。
原因は、全てを兼ね備えた楽園。
砂漠も、オアシスも、温泉も。
爽やかに咲き乱れる季節の花々に、美しくさえずる鳥たち。
人々の顔には生気が溢れ、動物も植物も活気に溢れていた。

それが、全ての原因だった。

神々は島を妬み、民を恨み、神を憎んだ。
ある神が言った。この島は、長く続かない、と。
またある神が言った。そんな島なら、ある必要はないではないか、と。
神々は口々に賛同し、エンデュアリ島を壊してしまおう、という結論に到った。
ところが。
ある女神が言った。
島には何も罪はない、と。罪深きは神、それ故に、島に呪いを掛けてしまえばよいだろう、と。
この時、本人達の知らない間に、島を流し、神を引き裂く呪いがかかったのだった。

それでも始めはうまくいっていた。2人の力で、島は流れても、その豊かな生活が止まることはなく。美しい智の神と崇められたカルロッタと、凛々しい詩の神と崇められたサントートと、いつも歩を同にして歩んでいた。

2人がすれ違ったのは、ある夏の日のことであった。

島を津波が襲い、島の半分が滅茶苦茶になった。
島民は、そこに住んでいた数だけ、死んでいった。

「何故?」
カルロッタは問う。
「不可抗力だった」
サントートは答える。

荒れ果てた野や、町には、死者を弔う花々が咲き乱れた。もちろんそれはカルロッタが鎮魂歌を歌いながら兄と一緒に咲かせたもので、夜になればそこから光が漏れて、天へ昇れるのだと噂された。

ところが、異変は起きた。

新月の夜のことだった。
「お兄様?何をしていらっしゃるの?」
花が咲く方から、異様な気配を感じた。神殿の外に出る。
「カルロッタ様ぁっ!」
島民の1人が、息も絶え絶えに走ってきた。
「花が、死者の花が……っ!」
「!」
彼を抱きかかえて、花の方に行く。他の島民に託すと、すぐに異変に気付いた。花が、無い。あるべき花は全て踏みにじられ、血に混じってただの物体となり果てていた。
「お兄様!」
呼びかけても、サントートは答えない。
「お兄様っ!」
その草原だった惨劇の場に、炎を放って歩き去った。
「お兄様―――――――――――――――っ!」
カルロッタの双眸から、涙がこぼれ落ちた。
「カルロッタ様!」
「……」
―――お兄様……絶対に……許さない……!
それから、兄妹は決別した。

「そして私は……歌を、兄は詩を……」
「……そう、ですか」
クリセルが呟いた。
―――止める術はきっと……ないんだ。
「……やめますか?……私から誘っておいて、あんまりだとは思いますが」
「……やめるわけ、無いでしょ」
メリルの小さな声に、マリカがハッとそちらを向く。
「誰かがやらなきゃいけないんだし……この島が血で満たされるのは、もういや……」
「……メリル」
「そうよ!私達はこうして、詩人に因縁があるんじゃないの?」
「……シュオナ……」
「そうそう。僕たちだって、好きでいるようなもんだし」
「……コレット」
「嫌ならとっくに無視してたし……いや、タブーだけどね」
「……トーシャ……」
「どうしても気にいらなけりゃ1人で行くから」
「……マリカ」
「ほっとくなんて、できないもの」
「……アマギ……」
「ってわけで、行きましょ」
「クリセル……」
ありがとう、ございます。そう、カルロッタは呟いた。
顔をうつむけたままで。
つづく
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