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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

龍霊使い14
はい、最終回への足音が大分近くなって参りました。
あと数話でこのお話もおしまいですが、もう少しだけお付き合いください。
では、どうぞ。
第十四話
嵐の通り道


「あれが、家なのね」
猫耳少女は、連れにそう確認した。
「そうだよ」
「ねぇ、一網打尽になんでしないの?」
連れの答えを待って、再度質問する。
「一網打尽にしちゃえば、早いのにぃ」
「気づかれたら、まずいだろ?あの家の奴らは、国王の親戚、つまり王族の系譜に連なる者達なんだ。
条約に違反したら、君が殺(や)ったあの紳士のことも、全てばれてしまう」
「ばれちゃったら?」
「そうだね……また、殺される。復讐のできない身になっちゃうね」
「いや……そんなのは嫌!」
ヒステリック気味に叫んだ少女の肩を、連れの男は、優しく抱き寄せた。
「だから、カノンちゃん。ソウキ様の作戦道理に、動くんだよ」
「わかった……わかったわ、センタ」
カノンと呼ばれた猫耳少女は、センタと呼ばれた男に抱きついた。

龍牙玲は、隣で眠る白城真を起こさないようにしてダブルベッドから抜け出た。
「ふぅ……」
これ以上の長居は無用、とばかりにいつもの、深紅のビスチェと漆黒のズボンを身につける。
おにぎりを囓りつつ、家を出るときに実家から失敬してきた宝刀と、ちょっと長めの脇差しの本数を確認すると、真と、後一通、手紙をしたためた。
ありったけの時間と紙とペンのインクを使って、嫌になるほど溢れ出た思いを、書き綴った。
―――真、多分もう会わないね……未来永劫。だってどうせ、アンタの未来に私はいない。
なぜなら、多分今日が私の命日だから……。
家人を起こさないよう注意して、玄関にたどり着いた。廊下を走ってくる音がする。
足音が近づくより早く、玲は家を飛び出した。そう、彼女が実家を飛び出したときと同じように。
空を駆けるように玄関から門までの長い道を一気に駆ける、駆ける、駆け抜ける。
「玲ッ!」
追っ手の正体は声を聞くだけで分かる。真だ。でも、止まらなかった。止まれなかった。とりあえず、撒くだけ撒いたら、ちょっと休もうかと思っていた。
撒く前に、蒼い外車のドアが開いて、中に引きずり込まれて、意識が途絶えた。
「玲――――――ッ!!!!!」
遠くで、真の絶叫が聞こえた。

「玲――――――ッ!!!!!」
叫んだ瞬間、目眩がした。近くで猫が鳴いていたようだが、真の知ったことではなかった。
蒼い外車は、見覚えがあった。風の噂で玲のことを聞いてキャリスに来る前に勤めていたローカスグランド・アニマルスクールで、
同僚や教え子を手当たり次第に殺していった『魔の車』である。今は事件の影響で、休校となっており、いずれは廃校になる予定だと聞いている。
「ナンバーも……同じ……!!」
すぐにでも追いかけて、首謀者を引きずり出したかった。しかし、その前に、ふらふらだった。
栄養補給をしなければ、式神はおろか、自分の体さえも動かないだろう。
「白城君は、休んでなさい。私が行くわ」
真の体を、屋敷に追いやって、紅珂みさきが走り出した。
―――――やっぱり、おなじだわ。
蒼い外車。それは、彼女が警官になって初めてテロと交戦したときの、テロリスト達の車である。だが、ナンバーが違う。
車が速度を増す。足ではついていけない。
「ちょっと!」
「は、はい、なんでありましょうか!」
パトカーを見つけて、中の警官に声を掛ける。
「貸して!テロリストを一掃するの!」
「え~っ!」
有無を言わせず、警官と鞄をつまみ出し、自分は運転席に乗り込んでアクセルを踏んだ。
瞬く間に外車に追いつく。やがて、外車はある建物の前に着いた。やたら大きい、二重の堀がある建物である。
「カロイデン……宮殿……?」
外車は宮殿の中に入っていく。が、パトカーは壁にぶつかり、前方がひしゃげた。
「ちゃちいわね!」
すぐさまノートパソコンを取り出し、キーボードを打つ。程なくして、壁が開いた。
ひしゃげたパトカーは使えない。だから、本物はパソコン操作で敵に見えないようにし、ミニチュアで大爆発を起こさせた。
その隙に、中に駆け込んだ。

「落ち着け」
礼波紅音は、真をベッドに横たわらせ、簡単な朝食を運んできた。
「だけど……」
「限界を考えろ」
「無理」
「あのな」
コンソメスープをすすりながら思い詰めたような表情をした真に、紅音はやれやれとため息をついた。
「お前はガキか。手紙の内容が、分からなかったか?筆跡から、感情が読みとれなかったのか!?」
「わかったさ!だから……」
「この期に及んでまだ言うか!」
紅音が柳眉を逆立てた。
「玲はなぁっ、お前を終生世話できないかもしれねぇ、って予感からあれを書いて、でもあれには、
あいつの人生最後の決意が込められてるんだよ!お前を死なせない、ってな!」
「俺を?」
「ああ」
そう言うと、紅音はやおら腰掛けていたテーブルから立ち上がった。
そのままスカート丈の短い黒のワンピースの上に羽織っていた革ジャンのポケットに手を突っ込んでバイクのキーを取り出した。
そのうちの一つを、真に放る。
「紅音、これは……」
「おまえがこっちに来たときに乗ってたバイク、修理しておいた」
それだけ告げると、紅音は玄関に向かって歩いていった。真も、数歩遅れて、バイクに跨った。
真の愛車『ユキシロ』を飛ばして数分で、敵の本拠地に着く。
「ああ、カロイデン宮殿か」
思い切り弾みをつけて発進させ、数枚の札を投げて、壁を打ち破る。その隙間に、ユキシロごと突っ込んだ。

「ああ、もう、派手にやってやんの」
紅音が、ものすごく不機嫌そうな顔で呟く。未だ、彼女は躊躇していた。
壁の向こうの、生ける者と逝けぬ者の存在。
見たいが見たくない。
会いたいが会いたくない。
矛盾と葛藤の狭間で、まだ抜けられない迷路。
「……ま、いいや」
---どうせ、どっちがいるのか分からないし。
そう、行ってみなければ分からないのだ。バイクをそこらに駐車して、飛び込んだ。
『どうせ死ぬのなら好きな男の腕の中がいい』
それは、紛れもなく、彼女の本心だから。

「唐也」
星李は、玄関先まで駆けてきた唐也の姿に、固まった。
「どういうつもりなんだよ、お前」
「行くんでしょ?カロイデン宮殿」
「ああ。玲を連れて……必ず帰ってくる」
「うん」
「だから、気にしなくていい」
そう言って、出来るだけさりげなく、横を通り抜けようとする。
「あいしてる」
生まれた、小さな風に乗って、唐也のさりげない愛の告白が届く。
「?」
よく聞こえなかった、と返すと、唐也がちょっと黙り込んだ。
「愛してる、星李」
「そう、か」
ほんの少しの嬉しさと、ほんの少しの寂しさと、ほんの少しの愛しさが、星李の中で一瞬、綯い交ぜになった。
「必ず、唐也も、帰ってこい」
唐也が分かったような分からないような顔をする。
そんな彼に、ニッコリ微笑みかけてから、家を飛び出した。
彼女の足で走って20分。その距離に、目的地の宮殿はあった。
薄暗い中を、飛ぶように駆け、知らず知らずのうちに玲達からの距離は等分に離れていった。

「必ず、唐也も、帰ってこい」
何を言われたのか、唐也は最初、理解できなかった。
何故、自分がそれを言われる必要があったのか?
「星李……」
もはや、愛しい人の姿は、見えない。寂しそうな笑顔の下には、諦めとも、やり切れなさとも、動揺ともつかない感情が隠されていたように思う。
―――先延ばしにしていたことが悪いのかも。
星李の仕事にめどが立ったら、言おうと思っていたこと。でも、もう潮時かもしれない。
自分の机に歩み寄り、小さな箱をポケットに入れた。
―――カロイデン宮殿。
目的地は決まっている。と、玄関に出た所でドアベルが鳴った。
「はい、今出ます」
誰かなぁ、とぼやきつつ、ドアを開けた。眼と眼がかち合う。
「君は……」
思いがけない来訪者に、出動は中断された。
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