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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

龍霊使い13
うわああ、短い上に、暗い!
あと何日、このシリーズは続けられるのか……。最終回への足音も迫って参りました。
それでは、どうぞ。
「本気か、君!?」

第十三話 長すぎる夜


「本気ですわ。総監」
紅珂みさきは、ゆっくりとそう言った。
「しかし、紅珂君」
「あなたは、礼波京羽誘拐事件に、これ以上関わるなとおっしゃった。だから、私はやめさせて頂くのですわ」
「な……」
あわてふためく総監に、みさきははっきりと、でも投げやりに言った。
「私は……私はどうしても、やらなければならないのです!それでも駄目とおっしゃるならば、私はこの事件、1人でも担当しますわ」
机に叩き付けられた辞表。
みさきの頑なな瞳。
総監は、ついに折れた。

「滝野警視……私は、ずっと少年課と交通課を見てきた」
「ええ」
「つらい思いする奴も、させる奴も、見てきた」
「ええ」
「そして私自身も、辛かった」
「だから……やめると?」
「いや」
礼波紅音は、静かに首を振った。
「違う」
「え」
「幸せの絶頂で死ねたら、なんて思ったことは?」
「……初めて、聞いた」
「そうか……私は、まだ、それを見つけてないし……それに……」
「……」
「どうせ死ぬのなら……好きな男の腕の中がいい……」
「そうですか……」
「だからお願いだ……もっと、追わせてくれ!」
「……」
滝野が、仕方のない人ですね、と苦笑した。

「はいはい、今開けま~す、……って、警視!?」
チャイムの音を聞いて、玄関に向かった安月唐也が、固まった。
「ごめんね、夜分遅くに。安月君も星李とゆっくりしたかったでしょうけど、ちょっと星李に話があって」
唐也の上司であるみさきは憔悴したような声でそう告げた。
「わかりました」
「みさき」
唐也が応接間に案内しようとしたとき、物音を聞いたのか、家の主・虎星李が出てきた。
「あがれよ」
「ありがとう」
応接間に行く途中、星李が口を開いた。
「辞表を出したって、本当なのか」
「ええ」
「そうか」
口数が少ない。
応接間に着く。みさきをソファに座らせ、星李が紅茶を淹れた。
「みさき、お前、殉職でもする気か?」
みさきがすっ、と顔を上げる。彼女の美貌は、生気を失って、その双眸に宿る新星(ノヴァ)も、光がさえない。
「辞表を叩き付ける、ってことは、それだけの覚悟があるかもしれない」
「そんなご大層な覚悟なんてないわよ。私は、もしかしたら自暴自棄(ヤケ)を起こしてるだけかもしれない」
「それはないでしょ」
背後からかかった声。星李が、格段驚きもせずに言った。
「なんだ、玲。起きてたのか」
「何言ってるの。私の睡眠時間はナポレオン並みよ」
「玲……何でここに」
「あの家引き払ってるのよ。今」
「嘘……でしょ……」
みさきの喉が、ひゅっ、と鳴った。
「ついでに言えば、紅音もいるわよ」
そう言って、玲がパタパタとかけていった。
「引き払って、来たんだろ?」
「え……」
「ばれすぎだ。その荷物で、こっちに来ないって方が、おかしい」
「まぁ、そうだけどさぁ」
みさきが口ごもる。
「なんだ、みさきも来てたのか?」
「紅音」
みさきの後ろに、紅音が立っていた。
「久し振り、でもねぇな。片付ける仕事がたくさんあるもんな」
「ま、どっちにしたって、辞表は受理されない」
星李が口を挟んだ。
「どういうこと?」
「そのままの意味だ。それに、殉職なんかしたって無駄だ」
「?」
三人の頭上に、クエスチョンマークが飛び交う。
星李の深い群青の瞳がエメラルドグリーンに変わって、元に戻る。
「私の未来視には、お前らのハッピーエンドしか見えない」

「蛇香様」
レリュー・マルガノフの声に、1人の女性が振り向いた。
「レリューか……」
女性―――蛇香蒼貴は、漆黒の右目とは対照的に、赤橙色の蛇の瞳を光らせた。
「奴らを、始末しておしまい」
美しいが、冬の氷のような冷たさを持った声が、響く。レリューが、アイスブルーの瞳をきらめかせて、頷く。そして、恭しく一礼すると下がっていった。
「条約など、履行せずとも同じこと。ただ、この世を変えたいならば、この世界を支配下に置くまで。それでようやく、血に飢えし亡霊の戦死共の魂も安らぐ」
歌うように、言葉を紡いでゆく。
「アンデスも……キャスリーンも……あの冬虫夏草もそうだったな……」
蛇眼を隠さず、生きてきて、生ききれなかった。自分が望んだだけ生きられない、
そして、自分を死に追いやった者への復讐を誓った者達を、生かしてきた。
レリューも、レリューの手下の穂上華音も、あの蛇遣いの伊良部日馬も。自分は無論、あの女。
龍牙玲。
直接的には、何の関わりもない。最初は、同情した。どれだけ逃れようと、竜眼、蛇眼などは世間の目からは逃げ切れぬ。
だが、名前を変え、人の感情や思考を読みとり、あまつさえ小動物などの低級霊なども視ることができるあの紅に煌めく眼を駆使して、
人の理解を得ようとした彼女を見て、気が変わった。
常人とコンタクトを取る玲に対し、常人を滅ぼそうと考えた蒼貴。2人の考えの溝の深さに、苛立ちが募り、それは、憎しみに変わった。
「だから、許せぬ」

「紅音、か」
冷たい宮殿の壁にもたれて、伊良部日馬は呟いた。今し方も、仲間の夏塔英一と、一悶着あったばかりだ。原因は、あの女だ。
礼波紅音という、猫使いの警官にして、暴走族のリーダー。制服の時以外で、何度もあった。うっかり丈の短すぎるスカートの中を見てしまったこともある。
だが、それ以前に、紅音のことが、好きだった。
自分は、生身の人間とはいえない。一度死に追いやられた身だ。でも、その復讐の相手のことなど、とうに忘れた。
恨みが大きすぎて、今ではもう、憎んでいるのか、そうでないのかさえ分からない。
「だが、あいつが、紅音が俺の残り少ない一生のために全てを捧げてくれるなら」
復讐など、止めても良いかもしれない。不死の血の効果を忘れたわけではない。蒼貴から受けた恩恵にして、忠誠を誓う証。
自分たちを倒すには、封印するほかはない。冬堂恵や、英一に取り憑いている呪縛は、破ることができても、である。
自分の魂が癒えない限り、この世からこの体は抹消されない。
「ならば、紅音が俺に魂を委ねてくれるならば、この世の呪縛から解放されよう」

それぞれの思いは、螺旋(スパイラル)を描くように、ゆっくりと、ゆっくりと絡み合って、宿命の糸と解け合っていった。
生ける者と、逝けぬ者の、衝突が生んだ、忌まわしき戦争の精算が、行われる日は、近いのだ。
続く
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