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創作ブログ(旧『花待館』)です。 なお、当館内に掲載しております作品等については著作権を放棄しておりません。

龍霊使い12
はい、やっとこさ前回で書き足し分が終わったので、連日UPいきたいと思います。
今回からはシリアス一直線です。
第十二話 想いと正義の狭間で


「警視」
「……」
「紅珂警視」
「……」
「警視!」
「え?……うわっ!」
三回呼びかけられて、机の上の書類を取り落としながら、紅珂みさきは部下・安月唐也に応対した。
「どうしたんですか。警視最近おかしいですよ」
「いや、何でもないわ」
「海本もいっていますよ?」
「何でも無いったら!」
怒鳴りつけ、みさきは唐也同様、硬直した。
「警視。働き過ぎですよ。上の方から、一連の事件から、手を引け、との指示です」
「嫌……それは嫌!」
「星李達が気を遣っているのも、そのことなんですね?」
「……」
パタン、とドアが閉まる。
恵と敵対したあの日から、みさきはいつもの覇気が無く、意識が飛んでいることすらあった。
それは紅音も同じなのだが、気を遣っているようで、最近は顔を出さない。
「どうしよう……私には……できない……」
迷路のごとく、悩みは彼女を容赦なく攻撃した。

「父さん」
「真か」
白神大社の社主・白城名夜は、義理の息子の顔を見た。
「久しいな」
「うん。俺だって、こうなるとは思わなかった」
「そうか」
名夜は、呟くと、後ろを向いた。
「お前の出生は、知っているな」
「うん。俺は、親がいなくて、境内に捨てられてたのを、父さんが拾ってくれたんだよね」
「ああ。……我が白神大社の者が本当に守りたい者を守るとき、式神は滅びるやもしれぬ。それでもよいか?」
「うん。……父さん、俺、好きな子が、できたんだ」
「そうか……その女(ひと)を、守り抜け、真。お前に与えた榊が砕け、式神が滅び、お前自身の怒りがつきても。ただし、死ぬなよ」
「うん」
はたはたと、舞い降りてきた自分の白いツバメを、真は撫でてやった。これが最後かも、と思いながら。

「家族……かぁ」
龍牙玲は、ベッドの上でころころと転がりながら、呟いた。
あの日―――辰河玲が、龍牙玲となった日。竜眼を隠すため、
否、竜眼によって見える陰鬱な死のセカイから自分を隠すために伸ばした前髪に、父は驚き、怒った。
今現在の辰河玲が辰河玲という15歳の竜眼の少女だという証を隠すなと。
でも、級友に自分が異常者だと言っているようで、結局は前髪で覆ってしまい、引き留める家族を振りきって、アクアローズの首都キャリスまで来た。
「もう、戻ることは許されない……」
今戻れば、何のためにこの山奥まで来たのか分からない。それ以前に、玲はここから離れられなくなっていた。
「真……」
数ヶ月前に、突然ふらりと現れた青年。メイドのようにこき使っても、彼は決して玲から離れなかった。
真が帰ってきたときに、彼女がいなければ、真はまた一人で追われる身となる。
教師をしていたという学校で、『蒼い蛇』に楯突いたばかりに、一人、孤独を道連れに追われていた頃に逆戻りしてしまう。
「あううぅ……」
そこまで真を心配する気持ちの正体がなんなのか、彼女は分かった気がした。
―――龍霊は大事。彼女が黄泉の国に召されるその時まで、一緒にいたい。でも、真は……自分が死んでも、守りたい。
たとえ、龍霊が消え、この街が滅びても。

「アリス……」
みゃうん、と飼い猫のアリスがすり寄った。礼波紅音は、バスタオル姿のまま、きゅっ、とアリスを抱きしめた。
「可愛いアリス。お前を残していくのは、すごく辛いよ……」
温かい、アリスの体。いつまでも、そばにいてやりたかった、と紅音は呟く。水気を含んだ金髪をアリスが自分の顔にすりつけた。
「あとは、副リーダーの稲原に頼んであるから」
みゃああ?
「ほら、知ってるだろ?あの青いやつに乗ってる兄ちゃん」
みゃうん。にゃあ?
「いい子だ。お前だけは、生き延びてほしいんだ。幸せになれよ?」
にゃあ!
アリスには、紅音を言葉で留めることはできない。
でも、敬愛する颯爽としたご主人様がもうひたすらしおらしくなってくるのを見ていられない。なら、どうしたらいいんだろう?
いつもの黒いスーツに、ピンヒールを履き、仲間達の元へ向かう。
「紅音さん」
「久し振りだな」
稲原の挨拶に、笑顔を返す。しかし、その微笑みはすぐに消え。
「全員、いるか?」
「おう」
稲原が、返す。いつもは見せない、憂いの表情と、何処か悲壮感を漂わせる眼差し。
「重要な、話があるんだ」
「わかった」
全員が、集まる。堪え切れそうにない涙を、深呼吸で乗り切って、紅音は、告げた。
「お前らに『蒼い蛇』の攻撃が来るかもしれんと分かってから、色々悩んで、暴れた末に、決めた。―――チーム『光迅』は、本日をもって、解散する」
一瞬、その場がシンとなった。
「みんな、いままでありがとうな」
「そんなの無いっすよ、紅音さん!」
メンバーの一人が叫ぶ。
「遠海。私は、お前らを死なせたくない」
遠海が、黙り込む。言葉を連ねようとする面々を制して、稲原が進み出た。
「アリスを頼む、ってのも、このことだったんだな?」
「ああ」
不意に、稲原が紅音を抱きしめた。
「解散なんか、しねぇよ!俺たちは、いつまでもお前を待ってるから!」
「……稲原……」
「死ぬなよ!絶対に!」
「……ああ……」
「俺たちは、みんなお前を愛してるから、やってこれたんだから!」
「……」
稲原を代表とした、愛の告白。
―――それを支えに、死んでいけるから……。
彼女の瞳から、涙が伝っていた。

「愛華に面会に来たんだけれど」
水上知華は、受付で手短に伝えると、夏姫夜知に案内されて小児病棟に向かった。
「あれ、今日は、葵ちゃんは?」
「星李先生が今、ちょっと出かけているもので、暇だからってあのコ、小児病棟コンサートをしに来たローズマリー・キャリッシュの手伝いを」
「ローズマリー・キャリッシュって……傍目には正体不明の人気歌手よね?」
「え、ええ……」
なにやら口ごもる夜知を横目に、知華は病棟を見回した。いつもはしんと静かなそこが、今日は明るい歌声と歓声が響き渡っていた。
部屋につき、夜知に礼を言うと、ドアを開けた。窓辺においた蛞蝓の「ナメちゃん」と交流していた妹・実和愛華が顔を上げる。
「姉ちゃん……」
「明日退院でしょ?なんか買っといたほうがいいもん、あるかなって」
「差し当たっては、清潔な部屋と、清潔なベッド」
「そう。案外、欲のない子ね。普通、マンガ、とか言うじゃん」
「じゃ、いい?」
愛華の真剣な眼差し。知華は、外の騒音を全てシャットダウンして、頷いた。
「星李先生や、玲さんに、恩返しをできる力がほしい」
「そっか。じゃ、何とかしてみるよ」
そこまで言ったとき、こんこん、とドアがなった。
「愛華、起きてる?」
「英香、恵花……」
あの連続殺人事件のあと、彼女たちはおんおんと、それこそ病棟にいる全ての患者がびっくりして
跳ね起きるのではないかと思うほどの声で三人して泣きわめき、仲直りしたのであった。
「明日、退院だね」
「うん」
「なんか、欲しいもん、ある?」
先ほどとはうって変わって、う~ん、と可愛らしい顔で考え込むと、ニッコリ笑ってこう言った。
「学校の裏のマンガ専門店に行きたい!」
「うしゃっ!」
それから、四人で弾けるように笑い転げた。

「はぁ~……」
唐也は、深く深くため息をついた。
最近、星李の疲れた顔ばかり見ている。昔は疲れ知らずだと思っていたけど、本来居候すべきではない自分が座り込んでいるのもあるのだろう。
唐也で多少遊んではいるが、時々そのそばで寝入ってしまうようだ。
彼は、知らず知らず、星李との出会いを回想していた。
5年前、唐也が大学2年、星李がまだ大学に入り立ての春だった。
当時、彼女たちが進学した瓏帝国上海国立大学にストレートで入学するものは半数くらいで、5年くらい浪人する者もいたという。
そんな中、アクアローズからの留学生で、ストレートで入ってしまい、尚かつあまり気が強くなかった唐也は、
四年生で、密かに「番長」とあだ名されている男達に、絡まれてしまったのだ。あやうく、カツアゲされそうになったその時のことである。
「なにやってんだ!」
と、威勢の良い声が響き渡った。男が、声の主の少女を睨み付ける。
「で、邪魔なんだが?」
「あぁ!?黙ってりゃ、見逃してやろうと思ったのに……」
「邪魔だって言ってるんだ。てめえの鬱憤、後輩で晴らして楽しいかよ?」
「黙って聞いてりゃ、このアマっ!」
番長達が、殴りかかる。が、一分もたたないうちに、彼らは地面にのびていた。
「……ふん。ハッタリだけのチンピラが。根性洗って出直してこい!」
少女が不機嫌きわまりない表情で呟く。唐也は、ブレザーの襟を直しもせず、ただただ、その光景を見ていた。
そう、目の前のロングヘアーに、ロングスカートの只今不機嫌な表情を浮かべている美少女が、横幅が3倍あるようなチンピラたちをのしてしまったのだ。
「……危なかったぞ。財布の中身、大丈夫か?」
不意に少女が近づいてきた。殴られたあとを、鞄から取り出したハンカチを水に濡らして、冷やす。しばらく観察すると、少女は安心したような表情を浮かべた。
「これなら、たいした傷じゃないから2日で治る。なにかあったら、医学科の教授のところに行くんだぞ」
「あ、はい」
そのまま帰ろうとする少女を、あわてて呼び止める。
「あの、お名前は」
少女は、ちょっと考え込むと、こう言った。
「……虎星李。ここの医学科、1年。星李でいい」
そこまで言うと、迎えを待たせているから、と颯爽と走り去ってしまった。
「連絡、くれたら嬉しいなぁ」
唐也は、ノートの切れっ端に書いた自己紹介の紙を、少女―――星李のスカートのポケットに忍ばせた。それから連絡が来たのは、3日後のことだった。
それから、なんだかんだ言いながらも構ってくれる星李に気をよくして、告白したら、フられてしまった。
しかし、諦めなかった。何度も何度も振られながら、交際を申し込み続け、ある日、剣道のテストをされた。
そして、その結果と言えば。
「面!」
スパン。
唐也の一本勝ちだった。ただし、唐也は面ではなく、胴を撃っていたのだが。
「よろしくな」
そこから、交際が始まったのだ。
 しかし、現実は厳しい。彼は大学を卒業してすぐ、アクアローズの国際警察に勤務することになり、星李と離れてしまったのだ。
その翌年、星李が来日した。だが、自分たちの関係は、あの頃のままだ。
「でも、星李のことは、好きだよ」

「なんだよ、もう……」
星李は出先から戻って早々、休憩室のドアを殴りつけた。そばにいた看護士が、ビク、と飛び上がった。
「あ、ごめん。あんまりいらついていた物だから」
「たまにはお休みも必要ですよ」
「……そうだな……」
みさきと紅音が、警察に辞表をたたきつけたらしい。と言うのを聞かされた。自分だってたまには休みたい。
2人とも挙動不審なのは唐也から聞いていた。机の上に脚をのせて座っていない、反応が鈍い、高笑いも全く見られない……等々である。
かくいう唐也も、かなり疲れているようだ。上司の反応の鈍さをカヴァーしなくてはならないのだから、当然と言えば当然だが。
「なぁ、秋野さん」
「はい?」
「滋養強壮って、なにがいいんだっけ」
「ウナギとか牡蠣です。あ、誰かに作ってあげるんでしたらやっぱり愛でしょう」
「そうか……愛は関係ない気もするが」
「あ、内科のことなら海月先生が詳しいので、呼んできますよ」
そういって秋野看護士が駆けていく。
「愛……ねぇ……」
最初はただ単に、義理だった。好きでも嫌いでもなく、色恋という物に興味がなかっただけの話である。
高校の頃、一度だけ財閥の息子と付き合ったことがあるが、セクハラまがいのことをされて、冷めてしまい、結局破局した。しかし、今回だけは違った。
―――離れられなくなってる。
他の国からの招待を蹴って、なぜかアクアローズに来たのも、きっとそれが理由だったのだろう。
「先生、机に脚乗っけちゃだめです」
海月有が立っていた。
「何だって良いだろ」
「そりゃそうですが」
言い負かされて、すごすご退散していく海月を見ながら、星李は再び考えを巡らした。
「結局、あれか」
―――義理が、恋に変わったらしい。
前から気付いていたことだけど、と机の上から脚をおろし、思い切り、ため息を吐いた。
続く

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